体外受精の出生児へのリスク(J Assist Reprod Genet. 2023)
体外受精は妊娠できない多くの夫婦にとって赤ちゃんを授かるために確立された治療法です。しかしながら、胎児に関するリスクも存在します。
本報告では、体外受精で生まれてくる児で現在言われているリスク因子を抽出しています。体外受精は妊娠することがゴールですが、生まれてくる子供達には親が面倒を見られなくなった後の人生もがあります。妊娠を考えるカップル・医療者は一つ一つ丁寧に医療行為に関わっていく必要があると感じさせられる総説です。
長い論文でしたので、体外受精児に関してリスク因子として考えられている項目のみ抜粋させていただきます。
≪ポイント≫
体外受精で生まれる児のリスクは、周産期合併症に始まり、生まれた後の様々なリスク上昇について40年以上にわたり報告されています(悪性腫瘍・喘息・肥満・糖尿病・心血管疾患・甲状腺疾患・神経発達障害・神経疾患)。生まれてくる児のために手軽な体外受精ではなく、丁寧な体外受精治療を行うことが必要に感じます。
≪論文紹介≫
Siwei Zhang, et al. J Assist Reprod Genet. 2023 Dec 26. doi: 10.1007/s10815-023-02988-5.
・周産期転機
多くの研究から、体外受精における早産と子宮内発育不全(intrauterine growth restriction: IUGR)の上昇を指摘さています。母体合併症の観点からは、妊娠高血圧症候群、胎盤機能不全、帝王切開率上昇が指摘されています。
・悪性腫瘍
胎児悪性腫瘍リスク上昇はほぼないと考えて良さそうです。
ただし肝がん・胚性腫瘍リスク増加を示した報告などがないわけでもありません。
また児の早産・高出生体重児・低アプガースコアなどの状態で生まれた胎児のがんリスクの増加が指摘されています。
・喘息
軽度喘息リスク増加を認めるようです。ビタミンDサプリメントを内服しているとリスク軽減されるという報告もあります。
・肥満
脂肪組成と代謝プロファイルの悪化のリスクが高い可能性があります。
・糖尿病
2型糖尿病との関連はなさそうです。糖代謝障害や1型糖尿病リスク増加の可能性があります。
・心血管疾患
心血管系疾患が増加する可能性があります。
・甲状腺疾患
潜在性甲状腺機能低下症が増加する可能性があります。
・神経発達障害
自閉症スペクトラム障害(ASD)・注意欠陥・多動性障害(ADHD)が増加する可能性が否定できません。知的障害(ID)・認知発達は関係なさそうです。
・神経疾患
脳性麻痺・てんかん・不安およびうつ病との関連は否定できません。
至適な体外受精治療を考えましょう。
根拠がない薬剤・サプリメント投与が行われていないか、妊娠率上昇のために不要なアドオン治療を行なっていないか、できる努力を怠っていないかなどです。
今回の論文では、適切なホルモン状態コントロール、単一胚移植、凍結や、PGTが本当に必要かどうか見つめ直すこと、培養環境の整備、両親の体重管理を含めた健康管理が、今からできる介入ポイントとしてあげられていました。
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文責:川井清考(院長)
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