PGT-A胚を複数移植するリスク(Obstet Gynecol. 2024)
生殖医療におけるPGT-A胚移植は国内では原則一個のみと思いますよね。当論文はアメリカの体外受精データバンクにおけるPGT-A胚移植を単一で行った場合と複数で行った場合の妊娠成績とリスク(多胎・早産・低出生体重児)について焦点をあてた報告です。
≪ポイント≫
PGT-A実施後の複数胚移植では、生児獲得率はいくらか改善したものの、妊娠の半数近くは多胎となりました。早産や低出生体重児リスクも上昇しました。PGT-A実施後の複数胚移植は有害事象が大きいことを情報提供していくことが推奨されます。
≪論文紹介≫
Rachel S Gerber., et al. Obstet Gynecol. 2024 Jan 1;143(1):92-100. doi: 10.1097/AOG.0000000000005443.
SART CORS(Society for Assisted Reproductive Technology Clinic Outcome Reporting System)全国データベースを用いたレトロスペクティブコホート研究です。
2014年から2016年にPGT-Aを受けた胚(自己卵子およびドナー卵子含む)の凍結融解胚移植周期について、多変量線形回帰モデルおよび対数二項回帰モデルを用いて、複数胚移植と単一胚移植間の生児獲得率、多胎妊娠率、分娩週数、出生体重の相対差および絶対差を推定しました。なお、凍結卵子周期、新鮮胚移植周期、複数刺激周期からの複数胚移植周期は除外されています。
結果:
15,638自己卵子と944ドナー卵子の胚移植周期が解析されました。自己卵子周期では、生児獲得率は単一胚移植と比較して複数胚移植で高くなりましたが(64.7% vs 53.2%, RR 1.24, 95%CI 1.20-1.28)、多胎妊娠率は顕著に増加しました(46.2% vs 1.4%, RR 32.56, 95%CI 26.55-39.92)。ドナー卵子周期も同様の傾向を示し、単一胚移植と比較して複数胚移植では生児獲得率(62.0%対49.7%、RR 1.26、95%CI、1.11-1.46)と多胎妊娠率(54.0%対0.8%)が増加した。早産率および低出生体重児率は、自己卵子周期およびドナー卵子周期のいずれにおいても、単一胚移植と比較して複数胚移植で有意に高くなりました。単胎分娩症例のサブグループ解析でも、単一胚移植と比較して複数胚移植による早産率および低出生体重児率リスクは高くなりました。
≪私見≫
この論文ではPGT-Aで移植した胚が2倍体であったのか、低頻度モザイクなどを含んでいたのかまではわかっていません。単胎分娩症例のサブグループ解析でも、単一胚移植と比較して複数胚移植による早産率および低出生体重児率リスクは高くなっていたのは今回の追跡で追えないvanishing twinなどのためではないかとされていますが、注目すべきデータだと感じています。
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文責:川井清考(院長)
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