体外受精妊娠の子供の成長パターンは?(論文紹介:ノルウェー)

患者様より、「よく体外受精妊娠は安全なんですか?」という質問をよく受けます。
奇形率にだけ目が行きがちで、周産期合併症や長期予後は議題にあがることがありません。今回ご紹介する論文は自然妊娠と体外受精妊娠の17歳までの身長・体重をフォローアップした報告です。

Maria C Magnusら. Hum Reprod. 2021.  DOI: 10.1093/humrep/deab007.

≪論文紹介≫

ARTで妊娠した子どもと自然妊娠した子どもの成長パターンを比較することを目的に前向き研究の人口ベースの研究を行いました。ノルウェーの母・父・子コホート研究(MoBa)に参加している81461人の子どもと、兵役の際のスクリーニングを受けた544113人の青年を対象としました。Medical Birth Registryに登録されたART妊娠において、妊娠中期から7歳までのMoBaの子どもたちの母親から報告された身長・体重を、混合効果線形回帰法を用いて妊娠形態別に比較しました。兵役検査時の17歳時点での自己申告の身長・体重の違いを線形回帰で評価しました。
結果:
出生時、ARTで妊娠した子どもは、身長が低く(男児-0.3cm、95%CI、-0.5~-0.1)、女児-0.4cm、95%CI、-0.5~-0.3)、体重が軽い傾向がありました(男児-113g、95%CI、-201~-25、女児-107g、95%CI、-197~-17)。出生後、ART妊娠した子どもは、より急速に成長し、3歳時点で身長と体重の両方が急速に増加しキャッチアップしました。ART妊娠した子どもは、7歳までは身長が大きかったのですが、17歳までは身長も体重も自然妊娠と同様になりました。今回のサブグループ解析では自然妊娠(妊娠までの期間:4-12ヶ月)、自然妊娠(妊娠までの期間:1 2ヶ月以上)、自然妊娠経験があるART妊娠、ART妊娠で比較もしていますが、妊娠に時間がかかった両親の子供は、ARTによる子供と同様の成長パターンと同じ経緯を示しました。凍結胚移植後に生まれた子どもは、新鮮胚移植後に生まれた子どもに比べて、最初の2年間は身長も体重も大きくなりました。

結論:
3歳頃まではART妊娠した子どもと自然妊娠した子どもの間に体格の違いが見られましたが、17歳になると差はなくなりました。凍結胚移植で妊娠した子どもは、新鮮胚移植で生まれた子どもよりも、胎児期から6歳までの間に体格が大きくなる傾向がありました。不妊症の両親から生まれた子供は、ART後に生まれた子供と同じような成長をしていました。このことは、ARTによって妊娠した子供の成長パターンの違いの少なくとも一部は、ARTの手順そのものではなく、両親の不妊症自身が要因である可能性を示唆しています。

≪私見≫

どうしても、私たちがART妊娠の予後をみるときに周産期合併症や出生児の状態で評価しがちですが、本当はもっと長期予後をみていく必要があるのだと思います。
ART妊娠の乳児期の急激な成長は、その後の心血管代謝疾患の健康に悪影響を及ぼす可能性も否定できません。体外受精後に生まれた子供の急激な体重増加に関するある研究では、8~18歳の時点で血圧が高くなることが示されていますし(Ceelenら.2008)、ARTを受けた子どもは1型糖尿病のリスクも高いことが示唆されています(Norrmanら.2020)。今後更なる長期予後の論文報告などを検討していく必要があるとも考えます。

体外受精手技や培養技術も徐々に変化しています。最新のデータをフォローして参りたいと思います。

文責:川井清考(院長)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのブログです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。

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