一般不妊治療群と体外受精治療群の周産期予後について(国内の報告をふまえて:2023/8現在)

不妊治療で妊娠した場合の周産期予後についてはどうなのでしょうか。
海外のデータも多々ございますが、周産期管理の方法が国内とは異なりますので日本の報告で比較をしてみたいと思います。

千葉県の成田赤十字病院から2015-2018年の分娩2,242例を自然妊娠群(平均31.7歳、1894名)、一般不妊治療群(平均34.1歳、124名)、体外受精治療群(平均36.9歳、180名)にわけて解析を行っております。(濱野ら.日本周産期・新生児学会雑誌56-1.2020年)多変量解析では、胎盤位置異常が一般不妊治療群、体外受精治療群で自然妊娠群より有意に高率であり、分娩出血量とApgar score 1分値 7点未満が体外受精治療群で自然妊娠群より有意に高率となっていました。Apgar score 1分値は出生直後の新生児の予後を評価する項目、今までの論文での指摘事項はなく、この施設でも他の新生児評価する項目で正常のことから新生児仮死や神経学的予後は反映していないと記載しています。

日本の周産期登録データ(2001-2005年、125の周産期施設からの281,157妊娠から条件にあった単胎分娩の自然妊娠群(平均32.2歳、4,111名)、一般不妊治療群(平均34.1歳、2,351名)、体外受精治療群(平均35.3歳、4,570名))林らの報告(Fertility and Sterility. 2012. DOI: 10.1016/j.fertnstert.2012.05.049)では、前置胎盤、早産、低出生体重時、SGAの割合が一般不妊治療群、体外受精治療群で自然妊娠群より有意に高率であり、自然頭位分娩の割合が低い傾向にありました。癒着胎盤と産後出血は体外受精治療群で高率であり、SGAの割合は一般不妊治療群で高率でした。
日本の国内からの論文に一致しているのは一般不妊治療・体外受精治療とも胎盤の位置異常と産後出血が増加することです。
国内では学会登録の観点から体外受精の周産期予後が体外受精施設側も把握しておりますが、一般不妊治療は出生後結果を登録する義務がなく周産期施設からの周産期結果のご報告もないこともありますので、こういう分娩施設からの報告は、とても大事だと思っています。

当院での分かっている範囲での一般不妊治療群(平均33.9歳、864名)と体外受精治療群(平均36.1歳、1,645名)での周産期予後ですが、一般不妊群と体外受精群で大きく違うのは帝王切開率で、どの年齢においても体外受精群で高率でした。
産科合併症はグラフのとおりです。高齢(40歳以上)になると3割以上の方が何らかの産科合併症を発症しているため、早期の妊娠のために適切な時期でのステップアップが必要と考えています。
低出生体重児の割合は、どの年齢においても妊娠方法による違いは大きくありませんでした。

開院(2016年)から現在(2023年8月)までの周産期結果

当院の体外受精分娩報告(開院-2023/8/16)
平均分娩週数 38.5週 
平均体重   2963g
帝王切開率  39.9%       
男女比    10 : 9
双胎率    5.90%(一卵性/二卵性 =1 : 5)
先天性異常率 3.1%
合併症率   25.8%(>40歳 : 34.1%)
妊娠糖尿病 8.0% 妊娠高血圧症候群 7.2% 胎盤位置異常 1.3%

当院の一般不妊分娩報告(開院-2023/8/16)
平均分娩週数 38.6週 
平均体重   2973g
帝王切開率  27.0%       
男女比    10 : 9
双胎率    2.2%
先天性異常率 1.1%
合併症率   25.2%(>40歳 : 45.3%)
妊娠糖尿病 8.7% 妊娠高血圧症候群 4.5% 胎盤位置異常 0.8%

文責:川井(院長)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのブログです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。

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