凍結融解胚移植による周産期合併症について
凍結融解胚移植は、明確な理由は不明ですが妊娠高血圧症候群のリスクの増加と関連しています。最近では、黄体がないことがこのリスク上昇の一部の原因であることが示唆されています。また、新たな証拠により排卵周期凍結融解胚移植と比較して、ホルモン補充周期凍結融解胚移植では、産後出血、巨大児、過期産など、周産期合併症が明らかになっています。凍結融解胚移植が広く普及しているにもかかわらず、出生率、母体の健康、周産期の健康に関する最適なプロトコルはまだ決定されていません。凍結融解胚移植に対する質の高いエビデンスをしめした研究が今後実施されていくことが好ましいと思います。
先日のブログではホルモン補充周期での凍結融解胚移植は妊娠高血圧症候群が高いことに触れました。
排卵周期とホルモン補充周期の凍結融解胚移植による周産期合併症の違い
では他の合併症についてはどうでしょうか。下記論文を参考に補足したいと思います。
Bhuchitra Singhら. Fertil Steril. 2020 . DOI: 10.1016/j.fertnstert.2019.12.007.
*凍結融解胚移植に使用されるプロトコルについて
胚は、妊娠を成立させるために重要な着床の窓の間に子宮に移植しなければいけまけん。排卵がある女性の場合、自然周期、修正自然周期、刺激周期、ホルモン補充周期での凍結融解胚移植が一般的に用いられます。
自然周期、修正自然周期、刺激周期では、卵胞を発育させ、E2を産生して子宮内膜の厚くします。排卵後、黄体ができます。黄体はPを産生し、子宮内膜が胚の着床に適した状態にします。
対照的に、ホルモン補充周期では、外因性のE2とPが子宮内膜の発達を促します。卵巣は抑制されているため、卵胞の発育はなく、排卵は起こらず、黄体もありません。
臨床現場では、モニタリングが少なく、移植を患者とクリニックの都合のよい日に行うことができるホルモン補充周期が一般的に行われています。
*凍結胚移植に伴う妊娠高血圧症候群以外の産科的合併症
Shaらが行ったメタアナリシスには31件の研究が含まれており、凍結胚移植による妊娠は、新鮮胚移植に比べて前置胎盤(RR 0.61、95%CI 0.43-0.88)、常位胎盤早期剥離(RR 0.63、95%CI 0.47-0.85)、低出生体重児(RR 0.74、95%CI 0.69-0.79)の相対リスクが低いことがわかりました。
しかし、凍結融解胚移植による妊娠は、新鮮胚移植に比べて、妊娠高血圧症候群(RR 1.44、95%CI 1.16-1.78)、産後出血(RR 1.28、95%CI 1.14-1.44)、LGA児(RR 1.58、95%CI 1.31-1.90)のリスクが増加しました。
(Sha Tら. Fertil Steril. 2018.)
文責:川井清考(院長)
お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのブログです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。