排卵周期とホルモン補充周期の凍結融解胚移植による周産期合併症の違い(論文紹介)

凍結融解胚移植の使用は、技術の向上と出生率の上昇に伴い、過去10年間で増加しています。凍結融解胚移植は、選択的な単一胚移植を容易にし、卵巣過剰刺激症候群を軽減し、子宮内膜の受容性を最適化し、PGT検査の時間を確保し、妊孕性保存治療を実施可能にします。
新鮮胚移植と比較して、凍結融解胚移植による妊娠は、妊娠高血圧症候群、癒着胎盤、LGA児、またはbirth defectsのリスクが高くなります。ただし、新鮮胚移植と排卵周期凍結融解胚移植は妊娠高血圧症候群に差がないという報告もあります(Shiら、2018年)。
凍結融解胚移植は国内も含めてホルモン補充周期が多い傾向にあり、合併症の観点から排卵周期凍結融解胚移植がみなおされています。
排卵周期凍結融解胚移植と比較して、ホルモン補充周期凍結融解胚移植では妊娠高血圧症候群のリスクが増加することを示した論文は多数あります(Ernstadら.2019、Saitoら. 2019、Von Versen-höynckら. 2019)。
今回は2020年に報告された凍結単一胚盤胞移植の内膜作成の違いによる周産期予後を比較した論文をご紹介させていただきます。

Reeva Makhijani ら.Reprod Biomed Online. 2020.  DOI: 10.1016/j.rbmo.2020.03.009

≪論文紹介≫

排卵周期とホルモン補充周期の凍結融解胚移植では、母体および周産期の転帰に違いがあるかを調べるために行われました。2013年から2018年の間にガラス化された胚盤胞を用いて排卵周期とホルモン補充周期の凍結融解胚移植を行い、単胎生児を出産した患者775人を対象としたレトロスペクティブコホート研究です。
ホルモン補充周期凍結融解胚移植では、前周期の黄体期にGnRHアゴニストによるダウンレギュレーションを行い、月経後にエストラジオールの経口または経皮投与を行い、プロゲステロンの筋肉内投与は、子宮内膜の厚さが約8mmになった時点で開始しました。プロゲステロンの筋肉内投与を開始して6日目にFETを実施しました。排卵周期凍結融解胚移植では月経周期10日目から毎日の血液検査でモニターされました。経膣超音波検査を行い、卵胞が発育していること、子宮内膜がリーフレットパターンになり8mm以上であることを確認しました。LHサージ(LH≧20IU/l)を検出してから6日後にFETを実施し、LHサージの2日後から膣内プロゲステロン(Crinone)で黄体補充を行いました。

結果:
384件の排卵周期凍結融解胚移植と391件のホルモン補充周期凍結融解胚移植の単胎妊娠を分析しました。ホルモン補充周期凍結融解胚移植では、全体的に母体の合併症が高く(32.2%[126/391]対18.8%[72/384];P<0.01)、その中でも妊娠高血圧症候群(15.3%[60/391]対6. 15.3%[60/391]対6.3%[24/384]; P < 0.01)、PROM(2.6%[10/391]対0.3%[1/384]; P = 0.02)、帝王切開(53.2%[206/387]対42.8%[163/381]; P = 0.03)などが排卵周期凍結融解胚移植に比べて高いことがわかりました。
年齢、BMI、妊娠期間、喫煙の有無、糖尿病や慢性高血圧の既往、不妊症の診断、移植した胚の数、PGT-Aなど、潜在的な交絡因子をコントロールした結果、排卵周期凍結融解胚移植とホルモン補充周期凍結融解胚移植を比較すると、妊娠高血圧症候群の調整オッズ比は2.39(95%CI 1.37~4.17)、母体の合併症全体では2.21(95%CI 1.51~3.22)でした。出生体重(3357.9±671.6g対3318.4±616.2g、P=0.40)やbirth defectsの発生率(1.5%[6/391]対2.1%[8/384]、P=0.57)などは差がありませんでした。
結論:
排卵周期凍結融解胚移植とホルモン補充周期凍結融解胚移植を比較すると、妊娠高血圧症候群を含む周産期合併症リスクがホルモン補充周期凍結融解胚移植に高い結果となりました。今後は調整可能なら排卵周期凍結融解胚移植に検討していく必要があるかもしれません。

≪私見≫

妊娠高血圧症候群は子宮胎盤不全が原因であることが認められていますが(Molら. 2019)、最近では、血管新生因子の不均衡が妊娠高血圧症候群の発症に関与していることが提唱されています(Vidaeffら. 2019)。さらに、黄体から分泌されるリラキシンや血管内皮細胞増殖因子(VEGF)の濃度も低くなります。
リラキシンはヒトの妊娠中に黄体からのみ分泌されます。リラキシンは強力な血管拡張剤であり、妊娠ラットモデルでは糸球体濾過量(GFR)や有効腎血漿流量(eRPF)、心拍出量、動脈コンプライアンスの増加などの循環系の変化を媒介します。黄体形成がない場合、妊娠初期に頸動脈-大腿脈波速度の低下と頸動脈-大腿脈波の通過時間の上昇が減少したと報告があります(Von Versen-höynckら. 2019)。
また、妊娠初期にリラキシン-2、クレアチニン、電解質を測定し、リラキシン-2が欠損している群(ホルモン補充周期)ではクレアチニン、ナトリウム、総CO2濃度が有意に高くなり妊娠中の正常な腎機能および体液調節機能の変化が損なわれる可能性を示唆することがわりました(Von Versen-höynckら. 2019)。
国内のART登録をもちいた研究でも東京医科歯科大学の齊藤和毅先生が自然周期凍結融解胚移植と比較して、ホルモン補充周期凍結融解胚移植後の妊娠では、妊娠高血圧症候群(調整OR 1.43、95%CI 1.14-1.80)および癒着胎盤(調整OR 6.91、95%CI 2.87-16.66)のオッズが上昇し、妊娠性糖尿病(調整OR 0.52、95%CI 0.40-0.68)のオッズが低下したとしています。
参考ブログ:本邦における凍結融解胚移植の周産期予後

妊娠高血圧症候群を事前に予知することが現在のところできませんので、ハイリスク群は排卵周期凍結融解胚移植を第一選択にしてもいいのかもしれません。

文責:川井清考(院長)

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