PRP治療のナラティブ・レビュー(論文紹介:その2)
子宮内膜厚が薄い場合の子宮内PRP注入療法は数多くの国内施設で行われていますが、世界的には卵巣予備能が低下している女性への卵巣皮質へのPRP注入療法が始まっています。ナラティブレビューに出てくる論文もほとんどが2018-2020年の論文ばかり。この後日本での普及するのでしょうか。
Sharara FIら. J Assist Reprod Genet. 2021.DOI: 10.1007/s10815-021-02146-9.
≪論文紹介≫
PRP卵巣注入療法は卵巣予備能が低下した女性におけるPRPを超音波ガイド下で卵巣皮質に注入する新しい治療です。一次の月経周期の2日目または3日目に注入した後に数周期にわかってフォローすることによりFSH、AMH、AFCの改善につながり妊娠に繋がっているケースが複数あります。
*Sills Eら.Gynecol Endocrinol. 2018.
PORの既往歴のある4人の患者に、ゴナドトロピンを用いたコントロール卵巣刺激を行いながら卵巣内自己PRPを行った研究を行い、この介入後にFSHレベルの低下(p<0.01)とAMHレベルの上昇傾向(有意差なしp=0.17)を認めました。
その後、すべての女性は1人あたり4〜7個の卵子を得ることができ、1名は妊娠継続に至っています。
*Pantos Kら. Cell Transplant. 2019.
3人の女性を対象としました(40歳 POF、27歳POF、46歳閉経)それぞれの女性は、FSH高値・AMH低値・AFC見えない状況でした。卵巣内自己PRP注入後、次の月経周期の2日目には、FSH値は有意に低下し(患者1 119→27、患者2 65→10、患者3 46.5→20)、AMH値は上昇し(患者1 0.16→0.22、患者2 0.06→0.13、患者3 0.17→0.25)、AFCも2-4個みえました。その後、三人とも妊娠をしています。
*Sfakianoudis Kら.Gynecol Obstet Invest. 2018.
体外受精不成功で回収卵子数が少なく胚質が悪い女性3名を対象としています。卵巣内自家PRP注入を受けた3ヵ月後には、全体的にFSHが67.33%減少し、AMHが75.18%増加しました(患者1 FSH 27. 8→11.1、AMH 0.65→1.1、患者2 FSH 18.3→4.1、AMH 0.54→0.93、患者3 FSH 24.1→8.6、AMH 0.44→0.81)。その後、3名が妊娠しています。
*Hsu Cら.Front Endocrinol. 2020.
POIと6ヵ月間の続発性無月経を呈した37歳の女性の症例報告を行いました[30]。彼女のAMHは0.02ng/ml未満、FSHは63.65mIU/ml、LHは44.91mIU/mlでした。
この患者はPRP卵巣注入療法と調節卵巣刺激で2回採卵を実施。3個ずつ回収卵あり、その中の初期分割期胚を移植し、妊娠出産に至っています。
*Sfakianoudis Kら.Gynecol Obstet Invest. 2018.
40人の患者(35歳から42歳)について報告しました。彼らはPRP卵巣注入群と対照群に分けられ、クロミッドHMGアンタゴニスト法で採卵を行い、その後、3-5日目に新鮮胚移植を実施しました。PRP群の着床率は33.33±44.99%,臨床的妊娠率は33.33±44.99%,出生率は40.00±50.71%であったのに対し,対照群の着床率は10.71+28.95%(p=0.70),臨床的妊娠率は10.71+28.95%(p=0.69),出生率は14.29+36.31%(p=0.71)となりました。
この論文では有意差がつきませんでした。
*Cakiroglu Yら. Aging. 2020.
POI(ESHRE定義に従い、少なくとも4カ月間稀発月経であり、FSH値 >25 IU/ml、4週間の間隔をおいて少なくとも2回測定され、40歳以前に発症し場合)と診断された女性311人を治療しました。卵巣内PRP注入を受け、これら311人の女性のうち、以前は186人がAFC 0であったところ、治療後には87人だけがAFC 0となりました。
他の女性では、AFCが統計的に有意に増加しました(1.7±1.4 vs 0.5±0.5; p<0.01)。また、卵巣内PRP治療後のAMHの増加(0.18±0.18ng/ml対0.13±0.16、p<0.01)が見られましたが、FSHは統計的に有意な差はありませんでした(41.6±24.7対41.9±24.7、p=0.87)。311名の参加者のうち、201名が体外受精を検討しました。
130名が採卵を実施し、82名(全体の26.4%)は分割期胚ができ25名は胚を凍結保存、57名は新鮮胚移植を行い13名が妊娠しました(胚移植あたり22.8%)。
合計すると、PRP治療を受けた311名の女性のうち、25名(8.0%)が自然妊娠または体外受精後に着床し、25名(8.0%)が胚を凍結保存しました。
*Melo Pら. J Assist Reprod Genet. 2020.
38歳以上女性(月経周期3日目のベースラインFSHが12mIU/ml以上、AMHが0.8ng/ml未満、年齢中央値 41歳)83人を対象に、前向き非無作為化比較試験を実施しました。46人がPRP卵巣注入を受け、37人は介入を受けませんでした。3ヵ月後の追跡調査では、PRP治療を受けた女性は、FSH、AMH、AFCが有意に改善したのに対し、対照群では変化が見られませんでした。さらに、生化学的妊娠率(26.1%対5.4%、P=0.02)と臨床的妊娠率(23.9%対5.4%、P=0.03)は全体的にPRP卵巣注入群で高い結果になりましたが、第一期流産率と生児出産率には群間で差がありませんでした。
*Sills Eら. Int J Regen Med. 2020
卵巣PRP注入療法を受けた182人の女性について報告しています。事前にAMH、BMI、血小板(PLT)濃度を記録し、その後、2週間間隔で最大3カ月間、血清AMH、卵胞刺激ホルモン、エストラジオールを測定しました。患者の平均±SD年齢は45.4±6.1歳でした。51名(28%)の患者で血清AMHの改善が認められ、治療後の中央値は167%[95%CI 91;280]であり、AMHの最大増加までの平均間隔は4週間でした(範囲2~10週間)。治療後のAMHの改善は若年層に限られたものではなく、年齢別(42歳未満と42歳以上)に分類すると、治療後に両グループで有意なAMHの改善が認められました(それぞれp=0.03、0.009)。ただし、FSHは両グループとも卵巣PRP注入療法後に上昇しており、高齢の閉経が近い女性に臨床結果に結びつくような改善はなさそうとしています。
≪私見≫
PRPは再生医療治療ですので、臨床試験も含めて厚労省への届け出が必要になるため簡単には始められませんが、PRP卵巣注入療法は早発閉経などの患者には有効な手段かもしれません。
文責:川井清考(院長)
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