PRP治療のナラティブ・レビュー(論文紹介:その1)
PRPとは日本語では多血小板血漿(けっしょう)療法、英語のPlatelet-Rich-Plasma therapyの略語です。PRPは患者様ご自身の血液から血小板という細胞を高濃度に含んだ液体を生成し、注射により体内の損傷部位に注入するという治療です。
整形外科,心臓外科,形成外科,皮膚科,歯科,糖尿病性創傷治癒など,さまざまな分野で新しい治療法として注目され、最近では不妊治療の分野でも注目され始めています。
子宮内PRP注入治療は当院でも日本で認可がおりた当初から実施しており、一定数の女性が妊娠にいたっております。PRP治療は国内で1移植につき20万程度(移植代金抜き)かかるため、内膜が薄い人は内膜が厚くなることを期待して治療をうけるわけですが、患者様が望むほど厚くなっていないからなのか、気付いたら私も積極的に勧める機会が以前より減ったなと感じていました。
ただ、同じような治療も含めて国内では数多くの施設が導入しており、よい論文がないかなとずっと探しておりましたが、今年になってナラティブレビュー(今までの振り返りと提言)ができてきましたので、ご紹介したいと思います。
Sharara FIら. J Assist Reprod Genet. 2021.DOI: 10.1007/s10815-021-02146-9.
≪論文紹介≫
目的は,生殖医療における自己PRP療法の効果に関する既存の文献をレビューし,現在の研究を総括すると共に,更なる研究の必要性を評価することとしています。PubMed,MEDLINE,CINAHL Plusを用いて文献検索を行い,生殖医療におけるPRP注入療法の使用に焦点を当てた研究を特定しました。論文は、①子宮内膜が薄い場合のPRP,②予備能が低い場合のPRP,③着床不全を繰り返す場合のPRPの3つに分けて検索しました。
結果:
①子宮内膜が薄い女性では、自己PRP療法後に子宮内膜の厚さが増加し、化学的妊娠率と臨床的妊娠率が上昇したという文献があります。
②卵巣予備能が低い女性では、卵巣内PRP注入療法により、AMH濃度が上昇し、FSHが低下し、臨床的妊娠および出生率が上昇する傾向が認められました。
③着床不全を繰り返す女性にも臨床的および生児出産率が上昇する傾向がみられました。
ただし、PRP製剤の標準化がなされていないことや、大規模なランダム化比較試験が行われていないことは、今後の研究で取り組む必要があります。決定的な大規模RCTが得られるまでは、PRPの使用は実験的なものと考えるべきとしています。
①子宮内膜が薄い場合のPRP
*Chang Yら. Int J Clin Exp Med. 2015.
内膜が薄い女性に初めてPRPを使用して、子宮内膜の厚さが増加し、妊娠結果が改善することを報告しました。彼らは、表中的なホルモン補充療法では胚移植が成功せず、子宮内膜の反応も悪かった5人の女性を分析しました。全員が子宮内膜の準備のためにエストラジオールを6mg/日で投与され、子宮内膜の反応が悪い場合は12mg/日に増量されました。すべての参加者でエストラジオールの投与量が増加したにも関わらず、子宮内膜は7mm未満のままでした。これらの女性には、子宮鏡による子宮内癒着がある場合は剥離、そして子宮内PRP注入療法を実施しました。PRP注入の72時間(3日)後に子宮内膜を再測定し、内膜が7mm未満であれば、再度PRP注入を行いました;2人の女性が1回、4人が2回の注入を受けました。
Changらは、5人の女性全てにおいて、PRP注入後48~72時間後に子宮内膜の厚さが増加し、プロゲステロン投与日までに7mmに達したことを報告ししました。全員が胚移植を受け、妊娠成立し、染色体異常があった一例以外は全員妊娠継続となりました。
*Chang Yら.,Medicine (Baltimore). 2019.
Changらは、最初の報告のフォローアップ研究として、より多くの集団(64人の患者)を分析する前向きコホート研究を行いました。参加者は全員、40歳以下でFSH値が10未満、良質な凍結胚盤胞を2個持っていました。月経周期の2日目または3日目にホルモン補充周期の内膜準備のためにエストラジオールを6mg/日、子宮内膜が7mm未満の場合は最大12mg/日使用し、7mm未満のままの場合は子宮内PRP注入療法を選択し、辞退した場合は対照群としました。
対照群と比較したPRP群の移植キャンセル率は、それぞれ19.05%と41.18%でした(p =0.022)。また、PRP群では対照群に比べて子宮内膜の厚さが有意に増加し(p=0.013)、臨床的妊娠率(44.12%対20%、p=0.036)と着床率(27.94%対11.67%、p=0.018)の増加も認められました。
*Zadehmodarres Sら.JBRA Assit Reprod. 2017.
子宮内膜が薄い10人の参加者を対象とした別の小規模な研究では、4人がアッシャーマン症候群と子宮筋腫のために子宮鏡手術既往あり、子宮内自己PRP注入療法を行った結果、注入後48時間(2日)で子宮内膜の厚さが増加しましたが、厚さが7mm以上になるには2回目の注入が必要でした。
その後、胚移植が行われ、参加者10名のうち5名が妊娠し、そのうち4名は正常に妊娠が進行しました。
*Tandulwadkar Sら. J Hum Reprod Sci. 2017.
エストラジオール療法にもかかわらず子宮内膜が薄い、子宮内膜の反応が悪いために2回以上ホルモン補充周期を中止した、またはパワードップラーで評価して子宮内膜の血管性が悪い、20歳から40歳の女性68人を分析しました。15~16日間のE2補充にもかかわらず子宮内膜の反応が悪く、子宮内膜血管シグナルが悪い人には、子宮内PRP注入療法を実施しました。PRPを注入した72時間(3日)後に、子宮内膜と血管の状態を再評価しました。子宮内膜血管シグナルが良好で子宮内膜の厚さが7mm以上の人には胚移植を行い、基準を満たさない人は再度子宮内PRP注入療法を繰り返しました。結果は、子宮内膜の厚さが有意に増加し(p<0.00001)、化学的妊娠率は60.93%(39人)、臨床的妊娠率は45.31%であった。HCG陽性であった39人の女性のうち、8名が様々な理由でterminationとなっています。
*Eftekhar Mら. Taiwan J Obstet Gynecol. 2018.
子宮内膜が薄い対象者66人を対象に、初の無作為化比較試験(PRP群とコントロール群)を実施しました。PRP群では、コントロール群と比較して、初回子宮内自己PRP注入後の子宮内膜の厚さに統計的な差が認められ(p=0.001)、着床率も高くなりました(p=0.002)。また、PRP投与群では、移植中止率が低く、妊娠率が高いことがわかりましたが、統計的に有意ではありませんでした。
*Coksuer Hら. Gynecol Endocrinol. 2019.
再発着床不全の女性70人を評価するレトロスペクティブ研究を行しました。子宮内膜が最適でない(7mm未満)女性はPRP併用下に凍結融解胚移植を実施し(34名)、子宮内膜が正常で凍結融解胚移植のみを実施した女性は対照群(36名)としました。ホルモン補充周期のプロトコールは周期1日目にエストラジオール6mgを1日1回使用し、子宮内膜が7mm未満の場合は1日12mgに増量しました。子宮内膜の厚さが8mm以上になった時点で、プロゲステロン膣剤400mgを1日2回投与することを開始し、妊娠した場合は妊娠12週まで継続しました。子宮内膜が20日間の補充にも厚くならなかった女性は、凍結融解胚移植の48時間前に子宮内自己PRP注入を実施しました。PRP群の子宮内膜の厚さは、PRP治療前の6.25mm(範囲4.3~6.9mm)に比べて、PRP治療後は10mm(範囲8~14mm)と有意に高くなりました(p<0.001)。
生化学的妊娠率は61.8%、臨床的妊娠率は50%、生児出生率は41.2%であり、後者2つは統計的に有意な結果となりました(それぞれp=0.042、0.045)。
*Nazari Lら. Hum Fertil. 2018.
PRP群(30人)または偽カテーテル群(30人)に無作為に割り付けられた60人の女性を分析しました。参加者全員が、ホルモン補充周期の内膜準備のために月経周期の2日目または3日目にエストラジオール6mg/日を投与され、子宮内膜の厚さが不十分な場合10日目に8mg/日に増量されました。11-12日目には、子宮内膜の薄さが持続するため、子宮内PRP注入または偽カテーテル挿入を実施しました。子宮内膜が7mm以上になると、400mgのプロゲステロンを1日2回経膣投与し、胚移植を実施しました。子宮内膜の厚さは,PRP群では7.21±0.18mm,偽カテーテル群では5.76±0.97mmとなりました(p<0.001)。
化学的妊娠はPRP群が,偽カテーテル群より高く(40%対6.7%、p=0.031)、臨床的妊娠も同様の結果となりました(33.3%対3.3%、p=0.048)。
*Frantz Nら. JBRA Assist Reprod. 2020.
標準的なホルモン補充療法に難治性の子宮内膜で、良好胚盤胞を凍結できている女性21人を対象にレトロスペクティブ解析を実施しました。ホルモン補充周期の内膜準備のために月経周期の最終日に6mgのエストラジオールを経口投与、7日目または10日目に子宮内膜の厚さがまだ7mm未満であれば、エストラジオールを1日8mgに増量しました。エストラジオールを14~17日投与しても子宮内膜が7mm以上にならない場合は、2日目ごとに子宮内PRP注入療法を行い、合計3回注入しました。3回目のPRP注入の後、プロゲステロン膣剤 800mg/日投与を開始し、凍結融解胚移植を実施しました。
16例の臨床的妊娠(66.7%)があり、そのうち13例は妊娠継続または出生に至り(54%)、3例は流産となりました。
≪私見≫
子宮内膜が薄い場合のPRPについては文献を見ていると、もっと積極的にPRP注入療法を行ってもいいような気がしますね。PRP注入療法に伴う子宮内膜厚の増加、着床率、生化学妊娠・臨床的妊娠率の上昇は、子宮内膜が厚くならない女性にとって一つの選択肢になることは間違いありません。ただ、今後より多くのサンプル数を用いた大規模な無作為化比較試験が出てくるのを期待したいところです。
③着床不全を繰り返す場合のPRPに関しては 今回の①子宮内膜が薄い場合のPRPと対象臓器は子宮で重複するため、次のブログで対象臓器が卵巣である②予備能が低い場合のPRPに触れてみたいと思います。
文責:川井清考(院長)
お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのブログです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。