体外受精が周産期予後に及ぼす影響について(エコチル調査)

体外受精は、不妊で苦しむ女性にとっては赤ちゃんを授かるため、時には必要な治療となります。たくさんの女性が救われる一方、体外受精を行った際に自分の身体的・精神的・金銭的・時間的な問題以外に胎児への影響を気にされる方が数多くいらっしゃいます。国内全国規模の大規模コホート研究であるエコチル調査の結果をご紹介させていただきます。

Nagata Cら. BMC Pregnancy Childbirth. 2019. DOI: 10.1186/s12884-019-2213-y.

生殖補助医療(ART)によって妊娠した場合,母体/周産期の合併症のリスクが高くなります。本調査は、ART妊娠した場合と自然妊娠した場合の母体・周産期合併症および妊娠・出産における有害な転帰のリスクを評価・比較することを目的としました。
日本の環境省が実施するエコチル調査(全国規模の出生コホート研究であるJapan Environment and Children's Study(JECS))の一環として後方視的に実施しました。
母体・周産期の合併症や有害な転帰のリスクを、潜在的交絡因子をコントロールしたロジスティック回帰と一般化推定方程式を用いて、妊娠の形態(自然妊娠、ARTを行わない排卵誘発、IVF、ICSI)で評価しました。
結果:
自然妊娠した女性(90,506名)、ARTを行わずに卵巣刺激を実施し妊娠した女性(3939名)、IVF妊娠女性(1476名)、ICSI妊娠女性(1671名)を対象としました。
自然妊娠の女性と比較して、IVF妊娠女性は、前置胎盤(調整OR 2.90 [95% CI 1.94, 4.34])、癒着胎盤(6.85 [3.88, 12.13])、妊娠高血圧症候群(1.40 [1.10, 1.1])のリスクが高い結果となりました。 ICSI妊娠女性は常位胎盤早期剥離(2.16 [1.20, 3.88])、前置胎盤(2.01 [1.29, 3.13])、癒着胎盤(7.81 [4.56, 13.38])のリスクが高くなりました。ART妊娠女性は、交絡因子を考慮しても、輸血(従来のIVF-ET:3.85 [2.52, 5.88]、ICSI:3.76 [2.49, 5.66])およびICU入室(従来のIVF-ET:2.58 [1.11, 6.01]、ICSI:3.45 [1.68, 7.06])のリスクが高くなりました。また、ART妊娠した新生児は、早産のリスクが高い傾向がありました。(IVF妊娠:1.42 [1.13, 1.78]、ICSI妊娠:1.31 [1.05, 1.64])。
結論:
ART妊娠女性では、自然妊娠群と比べて前置胎盤、癒着胎盤、帝王切開、輸血、ICU管理、早産のリスクが高くなりました。周産期施設が患者様に十分な情報提供をすることが重要です。

≪私見≫

体外受精妊娠後、そして高齢女性の周産期合併症はとても高く、当院でもハイリスク妊娠と判断した場合は初めから周産期センターにご紹介するようにしています。
当院での周産期合併症は妊娠糖尿病>妊娠高血圧症候群>胎盤位置異常の順番となっています。(妊娠糖尿病、妊娠高血圧症候群はエコチル調査の調整後のオッズ比では体外受精妊娠でのリスク上昇は認めていません。)

当クリニック開院から2020年12月までの体外受精妊娠した周産期結果

平均年齢 36.3±4.1歳(最高:46.3歳)
分娩週数 38.6±2.1週
平均体重 3024±468 g
男女比 男児 52.0%  女児 48.0%
帝王切開率 38.6%
双胎率 2.9%
先天性異常 3.39%

文責:川井清考(院長

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのブログです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。

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