流産手術は周産期合併症(早産)を増やすの?(論文紹介)

流産手術の短期的な合併症としては,子宮頸部の裂傷,出血,感染,子宮穿孔などがあります。長期的な合併症は、子宮内癒着(アッシャーマン症候群)であり、月経異常や不妊症の原因となる可能性があります。それ以外にも次回妊娠時の周産期合併症に影響を与える可能性も否定できません。
以前、のブログ流産した後、次の妊娠までどれくらい期間を開けた方がよいの?(論文紹介)で「流産から妊娠開始までの期間が短くても妊娠率の低下・流産率の上昇もみられず妊娠高血圧症候群や妊娠糖尿病などの周産期合併症は上昇しない」ことをご紹介させていただきましたが、今回ご紹介する論文は流産術後の早産との関連をまとめたメタアナリシスをご紹介させていただきます。

M. Lemmersら. Hum Reprod. 2016. doi: 10.1093/humrep/dev274.

≪論文紹介≫

流産手術は、早産リスクを高める可能性があるのでしょうか?
無作為化データがないため,コホート研究および症例対照研究のシステマティックレビューおよびメタアナリシスを行いました。OVID MEDLINEおよびOVID EMBASEを2014年5月21日まで検索しました。妊娠第一期の流産、その後流産手術を実施した女性と,流産手術歴のない女性を比較し検証しました。
主な結果:
1,853,017人の女性について報告した21件の研究を対象としました。流産手術歴のある女性とない女性を比較すると、37週未満の早産のオッズ比(OR)は1.29(95%CI 1.17;1.42)であり、超早産のORは32週未満で1.69(95%CI 1.20;2.38)、28週未満で1.68(95%CI 1.47;1.92)となりました。
複数回の流産手術歴がある女性は、流産手術歴のない女性と比較して、早産(37週未満)のORは1.74(95%CI 1.10;2.76)でした。早産歴のある女性では流産手術歴がある場合とない場合とを比較して、ORは1.44(95%CI 1.22;1.69)となりました。
結論:
無作為化試験ではないため、交絡因子を考慮して結果を補正はできていませんが、今回のメタアナリシスでは、流産手術はその後の早産のリスク増加と関連していることが示されました。複数回の流産手術に伴うリスクの増加、早産歴がある女性では流産手術後の早産のリスク増加は、より関連が強く示されました。

≪私見≫

流産手術がどのように早産リスクを上昇させるのか。メカニズムは下記が考えられています。

子宮頸管の拡張により子宮頸管が損傷し、子宮頸管無力症によるその後の妊娠での自然早産のリスクが直接増加するという仮説があります。この仮説は、子宮頸部高度異形成や上皮内がんなどで円錐切除手術を実施した後の早産リスクがあがることもわかっていて、同じメカニズムが考えられます(Watsonら. 2012)。
最近では子宮頸部の損傷により抗菌防御機構が損なわれ、早産の原因として知られる上行性微生物のコロニー形成(子宮内フローラの異常)が促進される可能性も考えられています。

掻爬によって子宮内膜が損傷し、その後の妊娠で胎盤の異常を引き起こし、早産や帝王切開につながる可能性があります。

文責:川井清考(院長)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのブログです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。

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