流産手術後の期間は胚移植成績に影響を与えるの?(論文紹介)

流産手術後は、どれくらいで移植可能なのでしょうか。
私たちは「2回月経がきたら」と指導していますが、実は過去に論文がほとんどないんです。「移植可能」という言葉は患者様の心の声を代弁すると「成績が落ちない」ということを意味しているような気がします。
妊娠を2~3カ月遅らせるように勧めることを裏付けるデータはほとんど報告されておらず、実は1980年代から2000年初期の流産後すぐに妊娠したら周産期予後がどうなったかと示すものしかないので、移植成績が下がるどうこうの議論で定義されているわけではないんです。
流産手術後「6ヶ月前後」で移植成績が変わるかどうかを示した報告をご紹介いたします。

Kemal Ozgurら. J Obstet Gynaecol. 2018.  doi: 10.1080/01443615.2018.1460335.

≪論文紹介≫

概要:
本研究では、流産手術後に実施された凍結胚移植(FET)の子宮内膜厚と生殖成績を調査しました。2014年1月から2016年8月に行われたICSI-全胚凍結(胚盤胞)-凍結融解胚盤法移植(1回目)で流産(5週から14週)に至り流産手術を実施した後に凍結融解胚盤法移植(2回目)を行った患者(流産手術グループ:n=71)、凍結融解胚盤法移植(1回目)で生化学妊娠に至った後に凍結融解胚盤法移植(2回目)を行った患者(生化学妊娠グループ:n=38)を対象としました。
凍結融解胚盤法移植(2回目)の生児獲得率を、流産術後6ヶ月以上または6ヶ月以内に移植した群の2群に分けて分析しました。流産手術グループと生化学妊娠グループでは、6カ月サブグループの2回目のFETにおける子宮内膜厚の中央値は、有意に減少していることがわかりました。生児出産率の相対リスクは、流産手術グループの6ヵ月以上待機群で有意に高く(1.65 [0.994-2.723] p=0.043)、生化学妊娠グループでは低い結果となりました(0.62 [0.268-1.427] p=0.329)。生化学妊娠グループでは6ヶ月以上または6ヶ月以内に移植した群の2群では有意な差はありませんでした。
流産術後の管理は、その後の凍結融解胚盤法移植の成績に一過性ではありますが優位に影響を与えることがわかりました。

  6ヶ月未満(n=35) 6ヶ月以上(n=36)
女性年齢 32.6 (27.4-36.6) 30.6 (26.1-35.1)
流産術後-移植期間(日) 127(102-146) 250(190-300)
流産実施週数(週) 8.7(7.7-9.4) 8.1(7.9-8.9)
術前移植時内膜(mm) 10.0(7.7-10.8) 9.0(7.9-10.9)
術後移植時内膜(mm) 8.5(7.5-9.0) 8.6(7.8-9.7)
移植胚グレード<3AA 13 11
移植胚グレード>3AA 22 25
臨床妊娠率 45.7% (16/35) 66.7% (24/36)
生産率 <3AA 30.8% (4/13) 54.5% (6/11)
生産率 >3AA 40.9% (9/22) 64% (16/25)

Kemal Ozgurらの「6ヶ月以内は妊娠率が低下することを示した報告」

Kimberly S Moon ら.Fertil Steril. 2009.  doi: 10.1016/j.fertnstert.2009.05.045. 
反対にKimberly S Moon らは6ヶ月以内での内膜厚が担保されていれば移植成績・生産率は下がらないという報告も出しています。。

  6ヶ月未満(n=176) 6ヶ月以上(n=66)
女性年齢 37.0 36.6
周期数 8.7(7.7-9.4) 8.1(7.9-8.9)
術後移植時内膜 10.9 11.5
臨床妊娠率 43% 41%
生産率  35% 30%

Kimberly S Moonらの「6ヶ月以内は妊娠率が低下しないことを示した報告」

≪私見≫

「流産手術後、何ヶ月で移植成績が落ちないか」の答えは、以下の3つが現在までの報告から示すことができる内容だと思います。
・現在のところ、内膜の厚みの回復を一指標にすることが好ましい
・少なくとも6ヶ月経過すると内膜厚が回復し移植成績が回復する。
・流産後6ヶ月以内で内膜が薄い場合は移植の時期を先延ばしにすることも検討する。

子宮内膜は流産手術のような物理的な損傷を受けても、処置後10日くらいには活発な増殖がおこるくらい回復は非常に早いことが報告されています。
「妊娠率=子宮内膜厚の回復」で解決するかどうかは不明ですが、流産は治療を遅らせるだけではなく、患者様にとって多大なストレスとなりますので流産を繰り返さないように配慮した治療を心がけたいと思います。

流産術後に自然妊娠することと胚移植で妊娠することは、全く同じとは思いませんが、下記の記事も参考にしていただければ幸いです。

流産した後、次の妊娠までどれくらい期間を開けた方がよいの?(論文紹介)
流産手術は周産期合併症(早産)を増やすの?(論文紹介)

 

文責:川井清考(院長)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのブログです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。

亀田IVFクリニック幕張