卵管手術に対する役割(アメリカ生殖医学会のcommittee opinion:その1)

不妊原因の25-35%を占める卵管性不妊は体外受精を選択するか、卵管手術を選択するか治療判断に迷うことがあります。
(卵管不妊を疑う対象者)
子宮外妊娠、骨盤内炎症性疾患、子宮内膜症、または骨盤内手術の既往があると、卵管因子性不妊症が疑われます。リスク因子を持たない女性の場合、クラミジア抗体検査が陰性であれば、卵管病変の可能性は15%以下とされています。
クラミジア抗体検査にも限界があり、偽陽性の可能性、肺炎などの遠隔のクラミジア感染の可能性、卵管障害を引き起こす前の感染状態である可能性などが考えられます。卵管疎通性を評価するための標準的な第一選択検査として、子宮卵管造影検査(HSG)が行われています。
(卵管疎通性検査)
HSGで卵管開通していれば、卵管閉塞の可能性は極めて低くなります。
HSGで卵管近位部の閉塞が確認された患者の60%では、1ヵ月後のHSGで卵管開存が確認されたという報告や卵管近位部の閉塞が確認された患者のその後の腹腔鏡検査で卵管が開通していることが報告されています。
2012年にも卵管手術に対してのアメリカ生殖医学会のcommittee opinionがでていますが、その頃から大きく変わったのがHSGの治療としての位置付けです。油性の造影剤を用いてHSGを行った場合、卵管の通過性がある患者では処置後数ヶ月間は妊娠率が高いことが報告されています。つまり、高度狭窄でFTなどを行うことを勧められる女性も数多くいらっしゃると思いますが、両側の卵管完全閉塞ではない限り1-3周期でもタイミングをとってみる価値があるのかと個人的には考えています。

患者各々の不妊原因や家族計画を見据えて卵管手術と体外受精のメリット・デメリットを比較し患者様に医療情報と治療を提供していく必要がでてきます。
(その1)では卵管カニュレーション(FT)の対象となる近位部閉塞を、(その2)では主に遠位部閉塞に伴う卵管水腫治療と避妊目的の卵管結紮術後の再吻合術について2回に分けてご紹介させていただきます。

Fertil Steril. 2021. DOI: 10.1016/j.fertnstert.2021.01.051.

①アメリカ生殖医学会のcommittee opinionでのまとめ

  • 卵管性不妊症の患者に卵管手術や体外受精かを検討する場合、女性年齢や卵巣予備能、精液検査、希望する子供の数、卵管疾患の部位や程度、他の不妊因子の有無、子宮外妊娠やその他の合併症のリスク、受診中の施設の手術経験、体外受精の成績、費用などから患者の考えをふまえて決定していく。
  • 体外受精による妊娠は、ほとんどが1年以内に妊娠することを前提に説明しますが、卵管手術では妊娠までの期間がかなり長くなることが多い。
  • 卵管手術と体外受精の妊娠率を比較した適切な試験はありません。しかし、体外受精の方がサイクルごとの妊娠率は高くなっています。
  • 腹腔鏡下卵管摘出術または近位卵管結紮術は、卵管開通手術の適応ではない患者において、体外受精の卵管水腫による妊娠率への有害な影響を改善します。
  • 卵管硬化療法(国内では未実施)の実施に関係なく卵管水腫の内容物の吸引は、未介入群より体外受精成績改善につながるが更なる研究が必要です。
  • HSG(子宮卵管造影)は、卵管疎通性を評価するための標準的な第一選択の検査ですが、卵管近位部閉塞の擬陽性を示すことがあります。
  • 他に重大な不妊因子のない若年女性の近位卵管閉塞に対して卵管開通術を推奨されます。
  • 他に重大な不妊因子のない若年女性の軽度の卵管水腫の治療には、腹腔鏡下手術による卵管形成術が推奨されます。
  • 体外受精の妊娠率を向上させるために、外科的に修復不可能な水腫の場合、近位の卵管切除・結紮を腹腔鏡下に実施を検討すべきです。
  • 卵管結紮解除術には、マイクロサージェリーによる吻合術が推奨されます。

②近位卵管閉塞に対する治療

近位卵管閉塞は、卵管性不妊の10%~25%を占めます。この閉塞は、粘液栓や不定形の異物による閉塞、卵管子宮接合部の痙攣、あるいは結節性卵管炎・骨盤内炎症性疾患、・子宮内膜症などによる線維化による物理的な閉塞が原因となります。
明らかに結節性卵管炎によるものでなければ、選択的卵管造影や卵管カニュレーション(国内でいうFT:卵管鏡下卵管形成術)を試みることができます。
卵管カニュレーションは、透視下もしくは腹腔鏡で確認しながら行うことが海外では一般的となっています。外側のカテーテルを卵管子宮接合部から挿入し、選択的卵管評価を行う。卵管閉塞が確認された場合には、柔らかい内側のカテーテルを近位の卵管から挿入します。
穏やかな圧力で卵管カニュレーションを行っても閉塞が解消されない場合には、物理的な真の閉塞が起こっていると考え、処置を中止する。卵管カニュレーションに不成功に終わる症例で近位の卵管を切除すると、93%の症例で結節性卵管炎、慢性卵管炎、または閉塞性線維症が発見されたと報告されています。このようなケースでは、閉塞部切除後のマイクロサージェリー下の吻合術より体外受精が望ましいとされています。
そのような場合以外にも年齢が高い女性や男性因子が強い不妊がある場合も体外受精が好ましいとされています。
卵管カニュレーションに関するメタアナリシスによると、(片側および両側の卵管閉塞の両方)累積臨床妊娠率は、6ヵ月後に22.3%(95%信頼区間[CI]:17.8%~27.8%)であり、12ヵ月後に26.4%(95%CI:23.0%~30.2%)、36ヵ月後に27.9%(95%CI:24.9%~31.3%)、48ヵ月後に28.5%(95%CI:25.5%~31.8%)と緩やかに上昇しました。累積生児出産率は22%(95%CI:18%~26%)、累積子宮外妊娠率は4%(95%CI:3%~5%)と報告されています。両側卵管閉塞の女性でも、処置後の臨床的妊娠率は27%(95%CI:23%~32%)となりました。カニューレ処置後6〜12ヶ月以内に自然妊娠する女性はほとんどであることから、処置後6ヶ月〜1年たったら、次の代替介入(体外受精)を検討することを望ましいとされています。
卵管通過性の回復後も約3分の1の症例で再閉塞されるといわれています。(日本のデータより再閉塞率が高いですが、こちらの方がしっくりきます:私見)
卵管カニュレーション手術での卵管穿孔の発生率は3%~11%であり、臨床的影響はないとされています。片側近位卵管閉塞症の場合、対側の卵管通過性があるわけなので治療法をどのように選択していくべきか結論はでていません。未治療の片側近位卵管閉塞症患者と原因不明不妊症患者では、卵巣刺激を併用した人工授精による妊娠率が同等であると報告されています。なので、卵巣刺激をおこなえば片側近位卵管閉塞であれば、介入の必要はないと考えることも可能です。(国内では複数排卵をさせ人工授精をおこなうことが一般的ではないので適さないかもしれません:私見)
処置による卵管開通率は、透視下手術と子宮鏡下手術のどちらでも同様とされています。最近のメタアナリシスでは、妊娠率は透視下手術の26%に対し、子宮鏡下手術の31%という結果が出ており二つの手術法に差がないことを示唆する結果となっています。

≪私見≫

ここでいう卵管カニュレーションは日本で主に行われているFT:卵管鏡下卵管形成術とはやや異なります。海外では子宮鏡下卵管形成術を行う際腹腔鏡を佩用することが多いため国内のような日帰り手術とは異なります。ただし、臨床成績をみると海外の卵管カニュレーション成績と日本のFTの成績がほぼ変わりませんので患者様負担と考えると国内で実施されているFTはそれなりに有効なんだと考えています。

文責:川井清考(院長)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのブログです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。

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