体外受精によるbirth defects(論文紹介:その2)
体外受精のbirth defectsについて続けて記載したいと思います。
今回の研究では、単胎児における主要な先天性異常(染色体異常および非染色体異常)の有病率は、自然妊娠群では1.9%、排卵誘発もしくは人工授精群では2.1%、体外受精群では2.0%で前後でした。今回は、その中で①blastogenesis defects、②顕微授精(ICSI)と先天性異常のリスク、③新鮮胚と凍結融解胚の比較と先天性障害のリスク、④兄弟姉妹間での妊娠方法の違いによる研究を取り上げてみたいと思います。
Barbara Lukeら. Hum Reprod. 2021. DOI: 10.1093/humrep/deaa272
≪論文紹介≫
①blastogenesis defects
「blastogenesis defects」は先天性欠損症のカテゴリーです(Opitz, 1993)。
Hallidayら(2010)がグループとして分類した先天性欠損症を、器官系ではなく病理学的な発生に基づいて定義されたblastogenesis defectsをbirth defectsの一分類としていれています。
ここでいう「blastogenesis」とは、受精から原腸形成の終わりまでの発生期間を指し、胚発育の最初の4週間に相当します。blastogenesis defectsは器官形成に先立って発生し、正中線や中胚葉の形成に影響を及ぼし、2つ以上の発生分野に関わり、重度で、発生に性差がない傾向があります。融合、側方化、分節、形態形成の動き、非対称性などの欠陥があります。胚盤形成不全は通常、原因不明ですが、これらの欠損は散発性であることが多く、経験的に再発リスクは低いとされています。
今回は腹壁欠損、脊椎分節欠損、気管食道瘻、横隔膜欠損、神経管欠損、肛門閉鎖症、腎欠損、尾部退行症候群、laterality defects、人魚体奇形、仙骨奇形、全前脳症、肢端腎発生障害、無肢症のうち1つ以上が存在するものと定義しました。 blastogenesis defectsの子どものうち、4%が染色体異常も有していました。
Hallidayら(2010)は、20838人の体外受精ではない児と6946人の体外受精児を対象とした単胎研究において、顕微授精(aOR 2.33、95%CI 1.12、4.87)と新鮮胚(AOR 3.65、95%CI 2.02、6.59)の両方でblastogenesis defectsリスクが上昇することを報告しています。今回の結果でも、Hallidayほどリスクは高くないものの、男性因子がない場合とある場合の顕微授精でリスクの増加(単胎児ではそれぞれaOR 1.49、95%CI 1.08、2.05、aOR 1.56、95%CI 1.17、2.08)を認めています。単胎児のblastogenesis defectsのリスク増加と有意に関連すると考えられたその他の要因は、母体年齢の高さ(44歳以上、AOR 1.80、95%CI 1.12、2.88)、糖尿病(妊娠前または妊娠中、AOR 1.46、95%CI 1.25、1.69)、男児の性別(aOR 1.17、95%CI 1.08、1.27)でした。これらの違いは、blastogenesis defectsを定義する際に心疾患を除外し、生児のみに限定したことや、研究期間中(Halliday研究では1991~2004年、我々の研究では2004~2016年)に培養液などが大きく変化したことに起因すると考えられます
②顕微授精(ICSI)と先天性異常のリスク
顕微授精により、重度の乏精子症の男性や、精巣内精子を用いて通常の方法では妊娠することができなかった夫婦が妊娠できるようになりました。しかし、最近では男性不妊ではない患者にも顕微授精を行うようになってきています。
顕微授精にておいて児に与える影響はいくつかの報告があります。遺伝子異常を持つ可能性のある精子を使用するリスク、構造異常がある精子を使用するリスク、卵子にピペットを挿入することによる機械的損傷の可能性などです。顕微授精によって生まれた子どもの転帰に関する分析では、先天性心疾患のリスクが3倍になるという報告(Tararbitら、2013)や、重大な先天性障害のリスクが2倍になるという報告(Hansenら、2002、Katalinicら、2004、Yanら、2011、Daviesら、2012、Farhiら、2013)がある一方、差がないとしている報告(Lieら、2005)もあります。今回の結果では、自然妊娠の単胎児と比較して、男性因子診断がない場合に顕微授精を行うと、主要な非染色体birth defectsのリスクが30%増加し、男性因子診断がある場合には42%に増加することが示されました。
これらの結果より、医学的に必要な場合にのみICSIを慎重に使用することが大事だと考えられます。
③新鮮胚と凍結融解胚の比較と先天性障害のリスク
凍結保存技術の向上により別周期に子宮内環境を整った状態で移植することにより生児出産率の向上、子宮外妊娠のリスクの低下が期待されます。凍結胚移植後に生まれた単胎は、新鮮胚移植で生まれた単胎と比較して、低出生体重児、SGA児、早産のリスクは同等か低くなりますが、自然妊娠後に生まれた単胎と比較して、LGA出生体重児の過剰、妊娠誘発性高血圧症、癒着胎盤などが増加することがわかっています(Wadaら, 1994、 Källénら, 2005;、Belvaら, 2008、 2016、 Shihら, 2008、Pinborgら, 2010、 Lukeら, 2019, 2020、Hwangら, 2019)。
Belvaら(2008)は、主要なbirth defectsの発生率は、顕微授精を行わない凍結融解胚移植(3.1%)および顕微授精を行う新鮮胚移植(3.4%)から生まれた子どもに比べて、顕微授精を行う凍結融解胚移植から生まれた子ども(6.4%)で最も高いと報告しています。Pinborgら(2010)は、1995年から2002年にデンマークで生まれた単胎児を対象にした研究で、新鮮胚移植と凍結融解胚移植から生まれた児は、自然妊娠群と比較して、重大なbirth defectsの発生率は上昇しないと報告しています。今回の調査結果では、これらの先行報告と一致しており、単胎児における主要なbirth defectsの頻度は、自己卵子新鮮胚移植と自己卵子凍結融解胚移植でそれぞれ2.4%と2.5%、ドナー卵子新鮮胚移植とドナー卵子凍結融解胚移植ではそれぞれ2.3%と2.7%でした。単胎の体外受精妊娠による出産では、凍結融解胚移植はbirth defectsのリスク上昇は認められませんでした。
④兄弟姉妹間での妊娠方法の違いによる研究
ほとんどの研究では、不妊治療を受けて妊娠した女性と不妊治療を受けずに妊娠した女性を比較していますが、この方法には、年齢、社会経済的地位、教育、不妊原因の違いなど、いくつかのバイアスが生じます。兄弟姉妹試験は、同じ女性が繰り返し妊娠した場合、両親は一緒なので遺伝的要素は排除できますが、年齢、妊娠回数、そして必要に応じて妊娠方法の変更による調整が生じてしまいます。兄弟姉妹とも体外受精で妊娠した単胎児において、凍結融解胚移植妊娠によるほうが新鮮胚移植妊娠よりLGA児のリスク増加と関連し(aOR 1.74、95%CI 1.45、2.08)、出生体重の差は222gであることを報告されています(Luke ら. 2017)。同様の報告がHenningsenら(2011:出生体重の差は286g)、Shihら(2008:出生体重の差は244g)でもみられています。
兄弟姉妹の先天性異常のリスクについて報告した研究は1件のみで、Daviesら(2012)らが自然妊娠で生まれた兄弟と比較して、体外受精で妊娠した兄弟ではbirth defectsのリスクが高いことを報告しています(crudeオッズ比、1.50、95%CI、1.08、2.09)。今回の調査結果では、単胎の体外受精の兄弟兄弟姉妹では、あらゆるbirth defects(AOR 1.15、95%CI 1.08、1.23)と筋骨格系のbirth defects(AOR 1.32、95%CI 1.04、1.67)のリスクが増加しました。
≪私見≫
①blastogenesis defects
女性特有の健康状態にも左右しそうですので、よりよい状態での移植が好ましいと思えます。
②顕微授精(ICSI)と先天性異常のリスク
無駄な顕微授精を行わないというのは第一優先だと私たちも思っています。
ただし、見ための精子の運動率や数が悪くなくても、最近では男性年齢の問題やDNA fragmentationの問題も出てきており、顕微授精だけで使用できるDNA fragmentationの少ない精子を選択する方法もでてきていますので、そこをふまえて考えていく必要があるんだと思います。つまり同じグレードならIVFを先に戻すことを優先したいと思います。
③新鮮胚と凍結融解胚の比較と先天性障害のリスク
凍結融解胚でbirth defectsは上がらなさそうですね。
文責:川井清考(院長)
お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのブログです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。