体外受精妊娠における精神発達の評価(エコチル調査)
日本の環境省が実施するエコチル調査(全国規模の出生コホート研究であるJapan Environment and Children's Study(JECS))の結果を用いて様々な体外受精関連の論文が報告されてきています。同データベースから体外受精で妊娠した女性は自然妊娠した女性よりも前置胎盤、癒着胎盤、妊娠高血圧症候群、輸血、集中治療室(ICU)入院、早産のリスクが高かったと報告しており、以前ご紹介いたしました(体外受精が周産期予後に及ぼす影響について(エコチル調査))。今回は体外受精の精神発達を評価した報告をご紹介いたします。
Takao Miyake, et al. Reproductive Medicine and Biology. 2022.DOI:10.1002/rmb2.12457
77,928人の子供(うち、IVF 4,071名、ICSI 1,542名)とその母親のデータを後方視的に分析しました。 こどもの3歳時点での精神発達遅滞は、Ages and Stages Questionnaires, 3rd edition日本語版を用いて評価しました。
結果:
粗モデルでは、1-4領域の精神発達遅滞のオッズ比は、体外受精、顕微授精、非ART(排卵誘発または子宮内人工授精)により妊娠した子どもの方が自然妊娠の子どもより高くなりましたが、親の背景因子と子どもの性別で調整した結果、精神発達遅滞リスクに差がありませんでした。体外受精で妊娠した単胎児女児では、自然妊娠女児と比較して、1つの領域で精神発達遅滞の高いオッズ比が観察されました。
結論:
精神発達遅滞のほとんどの症例は、体外受精妊娠とは関係なく、多胎妊娠や親の年齢など不妊に関連する因子と関連している可能性があります。
≪私見≫
体外受精妊娠後に出産に至った子どもにおいて、特定の領域で精神発達遅滞リスクが高まる結果となりましたが、両親の年齢と多胎が主要なリスク因子であることがわかりました。受精方法や凍結融解胚移植などの体外受精手技は、子どもの精神発達に影響を示さなかったことは何よりも患者様に治療を行う上での安心材料になりますね。
過去の同様の論文もブログで取り上げています。参考になさってください。
国内での生殖補助医療児の長期予後について
体外受精妊娠の子供の成長パターンは?(論文紹介:ノルウェー)
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文責:川井清考(院長)
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