妊娠時の妊娠黄体の有無が妊娠高血圧症候群と関連する(論文紹介)
ホルモン補充周期凍結融解胚移植と卵子提供での胚移植は妊娠高血圧症候群リスクを高めます。血管作動性ホルモンを分泌する黄体を持たないことに起因するのではないかと考えられています。黄体の有無が母体循環状態を変化させ、妊娠高血圧症候群リスクとなるかどうかを調査した報告をご紹介いたします。
≪ポイント≫
妊娠時黄体がないと、母体循環動態が乱れ、妊娠高血圧症候群リスクが上昇します。
≪論文紹介≫
Frauke von Versen-Höynck, et al. Hypertension. 2019 Mar;73(3):640-649. doi: 10.1161/HYPERTENSIONAHA.118.12043.
黄体が0個(n=26)、1個(n=23)、2個以上(n=22)の女性について、妊娠前、妊娠中、妊娠後を連続的に評価した産科転帰の前向きコホート研究です。頸動脈-大腿動脈脈波伝播速度(carotid-femoral pulse wave velocity, cfPWV)と頸動脈-大腿動脈脈波伝播時間を評価しました。同時に自家卵による単胎生産の周産期転帰を、黄体数による群間比較(n=683)を行いました。
予想される頸動脈大腿部脈波伝播速度の低下と頸動脈大腿部通過時間の上昇は、単一/複数黄体では妊娠7-9週から差を認め、妊娠10~12週で最も顕著となりました。黄体がない群は黄体1個の群と比較して、妊娠高血圧症候群(aOR, 2.73;95% CI, 1.14-6.49)および重度の妊娠高血圧症候群(aOR, 6.45;95% CI, 1.94-25.09)のリスク因子となりました。ホルモン補充周期凍結融解胚移植(黄体0個)は,修正自然排卵周期凍結融解胚移植(黄体1個)と比較して、妊娠高血圧症候群(12.8% vs. 3.9%; P=0.02)、重度の妊娠高血圧症候群(9.6% vs. 0.8%; P=0.002)と関連していました。
≪私見≫
体外受精における周産期合併症との関連を指摘する報告は、様々あります。ただし、妊娠しなければ始まらない部分もあり、患者様背景を意識しながら治療選択を行なっていくことが重要だと感じています。
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文責:川井清考(院長)
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