凍結融解胚移植は妊娠高血圧症候群のリスク因子である(論文紹介)

凍結融解胚移植は、成績が安定している点や卵巣過剰刺激症候群のような採卵後合併症を軽減できる点、着床前診断を含め胚の選択するうえで必要な点などから需要が増えています。ただし、自然妊娠や新鮮胚移植に比べて妊娠高血圧症候群のリスクが高いとされていて、こちらに関して北欧で調査された報告が高血圧のビッグジャーナルに掲載されましたのでご紹介させていただきます。

≪ポイント≫

凍結融解胚移植の妊娠高血圧症候群リスクは、同じ親の兄弟(同胞内)における妊娠を比較しても自然妊娠群より高くなりました。
BMI/喫煙習慣を補正し、同胞内で3年以内の妊娠を比較しても同様の結果となりました。また、顕微授精を除く媒精グループ、単一胚移植グループ、胚盤胞移植グループに限定しても同様の結果となりました。

≪論文紹介≫

Sindre H Petersen, et al. Hypertension. 2022 Sep 26.  doi: 10.1161/HYPERTENSIONAHA.122.19689. 

デンマーク(1994~2014年),ノルウェー,スウェーデン(1988~2015年)のデータベースを用いて,同胞内比較も含めた4,426,691件自然妊娠、78,300件の新鮮胚移植、18,037件の凍結融解胚移植による単胎妊娠(33,20件の同胞内妊娠を含む)を対象とし、自然妊娠に対する新鮮胚移植および凍結融解胚移植の妊娠高血圧症候群の調整オッズ比(aOR)と95%CIを推定しました。出生年、母体年齢、分娩数、および国による調整を行っています。
結果:
妊娠高血圧症候群のリスクは、全体妊娠(7.4% vs. 4.3%; aOR, 1.74[95%CI, 1.61-1.89])および同胞内妊娠(aOR, 2.02[95%CI, 1.72-2.39])で自然妊娠に比べ凍結融解胚移植で高くなることが示されました。新鮮胚移植では、全体妊娠(aOR, 1.02[95%CI, 0.98-1.07])および同胞内妊娠(aOR, 0.99[95%CI, 0.89-1.09])ともに妊娠高血圧症候群リスクは自然妊娠とほぼ同じでした。

≪私見≫

過去の報告でも触れられていますが、妊娠高血圧症候群が増えるメカニズムはまだわかっていませんが、内膜の黄体補充による変化、胚の選択、凍結・融解に伴うエピジェネティックな変化が絨毛膜の浸潤に影響を与え、その結果胎盤の異常につながると考えられています。今回の検討ではホルモン補充周期と排卵周期の内膜作成の違いには触れられていません。

「凍結融解胚移植は避けるべきか?」という問いに対しての私なりの意見ですが、妊娠高血圧症候群だけをみると新鮮胚移植がよいように感じるかもしれませんが、不妊の患者様が妊娠しないと先にはすすみません。
胚の凍結保存は良好胚選択を容易にし、多胎妊娠の軽減しながら妊娠成績の向上につながる治療を提供できます。また、卵巣過剰刺激症候群の採卵合併症の軽減にもつながります。リスクベネフィットをふくめて情報提供を行い、挙児希望がある患者様に治療を提供していくことが重要だと感じています。

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文責:川井清考(院長)

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