体外受精を行うと胎盤病理はどう変化する?(論文紹介)

体外受精の周産期予後は、胎盤が大きく関わっていることは確かです。体外受精群と非体外受精群で胎盤病理はどう変化しているのでしょうか。
これらを調査した報告をご紹介いたします。

≪論文紹介≫

Caitlin R Sacha, et al. Fertil Steril. 2022. DOI: 10.1016/j.fertnstert.2021.12.017

体外受精/顕微授精(ICSI)で妊娠した満期にて単胎出産した女性(ART群)と体外受精を行わずに単胎出産した女性(非ART群)を対象とした不妊施設で行われたレトロスペクティブコホート研究です。卵巣刺激はロング法、ショート法、アンタゴニスト法で実施し、新鮮胚移植としています。患者背景は、カイ二乗検定、student-t検定、またはノンパラメトリック検定で、胎盤病理は多変量ロジスティック回帰モデルを用いて比較しました。評価項目として解剖異常所見、炎症異常所見、血管病理異常所見の胎盤病理の発生率としました。
結果:
解剖異常所見(aOR 2.50、95%CI 1.42-4.40)と血管病理異常所見(aOR 2.00、95%CI 1.13-3.53)の発生率は、ART群(n = 511)の方が非ART群(n = 121)よりも高くなりました。主に顕微授精による妊娠で解剖異常所見(aOR 2.97、95%CI 1.55-5.66)と血管病理異常所見(aOR 1.98、95%CI 1.04-3.75)のオッズが有意に高くなりました。単一胚盤胞移植は、解剖学的病変の増加と関連していました(ART: aOR 4.89, 95% CI 2.28-10.49; ICSI: aOR 3.38, 95% CI 1.49-7.71)。
新鮮胚移植は、体外受精を行わない妊娠と比較して、正期単胎の生児において解剖異常所見および血管病理異常所見の増加と関連しています。この所見は、より多くの患者コホートでプロスペクティブに調査する必要があります。

解剖異常所見は、胎盤重量の変化(10パーセンタイル未満または90パーセンタイル以上)、臍帯の付着異常、単一臍動脈、血管、副胎盤としました。炎症異常所見とは、慢性炎症の病変は絨毛膜羊膜炎、形質細胞陽性の絨毛炎、原因不明の絨毛炎としました。血管病理異常所見は、母体の血管不全の特徴(MVM: placental infarcts、hypermature villi もしくはaccelerated villous maturation、decidual arteriopathy、distal villous hypoplasia、increased syncytial knots、acute もしくは chronic abruption、increased perivillous fibrin)と、胎児の血管不全の特徴(FVM: avascular villi、villous stromal-vascular karyorrhexism、stem vessel obliteration、fetal vascular thrombi)、胎盤付近の血腫などとしました。

≪私見≫

体外受精で非体外受精群に比べて胎盤病理が変化するのは体外受精の周産期予後とは密接な関連がありそうですね。患者背景でART群 28.2歳、非ART群 35.1歳でした。ART群は女性年齢が高く、白人が多く、帝王切開が多く、preeclampsiaが高い傾向がありました。両群で出生体重は差がありませんでした。
体外受精の周産期予後に関しては、当院のブログ、不妊ブログ目次(-2021/12:一般不妊・男性・不育症・治療予後編)の「不妊治療の予後調査」でご覧ください。胎盤の初期発生にはエピジェネティックな変化が多く関係していることがわかっています。

今回の結果をみてもICSIで胎盤病理が大きく変化しているのはとても興味深い所見です。私が大学院で指導いただいた研究室が胎盤のエピジェネティクスを専門としていたので、臨床的観点からも注視していきたいと思います。

文責:川井清考(院長)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのブログです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。

当ブログ内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。

亀田IVFクリニック幕張