てんかん女性の高用量葉酸摂取と小児がんとの関係(論文紹介)

過去の報告で葉酸は0.8mg/日までの摂取であれば、小児がん、小児中枢神経系腫瘍、急性リンパ性白血病の発生リスクが軽減するという報告があります。
最近のコホート研究で、てんかんの既往のある女性の高用量の葉酸摂取がその母親から生まれた子どもの小児がん発生率の上昇につながっていたという報告がでてきました。
この報告により葉酸摂取を避ける女性が増えないよう、取り上げておきたいと思います。

≪ポイント≫

  • てんかん既往の女性が1日1mg以上の葉酸を摂取するとその母親から生まれた子どもの小児がんリスクが2.7倍に上昇しました(1.4% vs. 0.6%)。しかし、てんかん既往がない女性が1日1mgの葉酸を摂取しても小児がんリスクは上昇しませんでした。
  • てんかん既往の女性が1日4mg以上以下で解析しても差がありませんでした。また、抗てんかん薬内服単独で小児がん発生リスクの上昇とも関連がありませんでした。
  • 不明なことが多いですが、抗てんかん薬と高用量の葉酸接種の相互作用により小児がん発生リスクに寄与している可能性がでてきました。葉酸摂取のリスクベネフィットを説明していく必要があります。
  • 抗てんかん薬内服女性の葉酸摂取はNTDs児出産既往がない限り、1日4-5mgの高用量葉酸摂取がNTDs児発症リスク軽減するエビデンスがないことが説明する必要があります。

≪論文紹介≫

Håkon Magne Vegrim, et al. JAMA Neurol. 2022 Sep 26;e222977. doi: 10.1001/jamaneurol.2022.2977.

1997年から2017年まで、デンマーク、ノルウェー、スウェーデンのデータベースと用いたコホート研究で、分析は2022年1月10日から2022年1月31日に実施し、妊娠開始90日前から出産までの間に、高用量の葉酸錠剤(1日1mg)を処方された母親から出産した子どもを対象としました。評価項目として、20歳未満での小児がんの初発としました。

結果:
3,379,171人の子どもの追跡終了時の年齢の中央値は7.3歳(IQR、3.5-10.9歳)でした。てんかん既往の母親から生まれた27,784人の子供(51.4%が男性)のうち、5,934人(21.4%)が高用量の葉酸(平均用量、4.3 mg)を内服していました。
高用量葉酸錠剤を内服した母親から生まれた18人の小児がん患者に対して、高用量葉酸錠剤を内服していない母親から生まれた29人の小児がん患者を比較すると、調整ハザード比2.7[95%CI, 1.2-6.3]、高用量葉酸錠剤内服群の絶対リスク:1.4%[95%CI、0.5-3.6%]、高用量葉酸錠剤非内服の絶対リスク:0.6%[95%CI、0.3-1.1%]となることが示されました。
てんかん既往のない母親の子供では、46,646人(1.4%)が高用量葉酸(平均用量、2.9 mg)内服群の子供で、そのうち小児がん患者は69人であり、非内服群と比較し調整ハザード比は 1.1(95%CI, 0.9-1.4; 発生頻度0.4% [95% CI, 0.3-0.5%] )でした。
高用量の葉酸摂取ではなく抗てんかん薬との小児がんの発生頻度には関連は認めませんでした。

≪私見≫

なぜ、葉酸と小児がんとの関係が危惧されるかというと、高用量の葉酸補給によりDNAメチル化が変化し、発がんリスクが上昇するという考えがあるからです。
産科診療ガイドライン2020では、カルバマゼピンやバルプロ酸などの抗てんかん薬、潰瘍性大腸炎の治療薬であるサラゾスルファピリジンなどは葉酸拮抗作用をもち、神経管閉鎖障害(NTDs:二分脊椎、脳瘤、無脳症など)のリスクを上昇させますが、葉酸の同時服用がリスク軽減につながるとしています。NTDs出産既往女性が次に産む子供がNTDsであるリスクは10倍以上高いとされているため、再発予防目的にCDC 4mg/day, WHO 5mg/dayの葉酸を妊娠前から妊娠3ヶ月末(12週に達するまで)服用することを推奨しています。妊娠期間を通じて5mg/dayを超える葉酸服用した場合には児の運動神経発達遅延(1歳児)のリスク上昇も認めるため、妊娠12週以降は通常用量の葉酸サプリメント摂取に変更することが好ましいとされています。
どんな介入でもリスクベネフィットがあります。
全てを患者様が担う必要がなく、過去の報告をもとに医療者が患者様のベネフィットが高い方に導くことが必要なことだと考えています。

文責:川井清考(院長)

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