気管支喘息は不妊と関係する?(論文紹介)

喘息女性では、妊娠までの期間が長い、流産リスクが高い、生殖補助医療の必要性が高いなど、妊娠にとってネガティブな情報が散乱していますが、過去の報告では不妊と関係するというもの、関係しないというもの様々あります。どの先行研究も症例数が多くなく、一定の見解が得られていません。
気管支喘息が不妊となぜ関連づけられて話題にあがるというと、IL-6、TNF-α、ナチュラルキラー細胞の増加など、全身のサイトカインの不均衡が喘息と生殖不全に共通して見られるからです。
今回、スウェーデンの一地方の20年分の医療データベースから気管支喘息と妊娠との関係を調査したコホート研究が報告されましたのでご紹介いたします。

≪ポイント≫

気管支喘息は女性の生殖機能に影響を与え、流産率、不妊治療の実施の割合が3割ほど増加する可能性が示唆されました。ただし、最終的な妊娠に至る割合には影響がありませんでした。過去の報告からも気管支喘息を薬物使用や生活習慣の改善によって安定化させることでリスク軽減される可能性も報告されていることから、気管支喘息の内科的管理を適切に行うことが推奨されます

≪論文紹介≫

Anna Jöud, et al. Hum Reprod. 2022 Oct 10;deac216.  doi: 10.1093/humrep/deac216

スウェーデン最南端の県のSkåne Healthcare Registerを用い、過去20年間(1998年から2019年)の間に15~45歳の女性で、不妊診断や妊娠などの生殖医療診断・転機の前に気管支喘息の診断を受けた全ての女性を対象としました(n=6,445)。出産、不妊、流産、体外受精について、気管支喘息既往のない女性(n=200,248)と、修正ポアソン回帰を用いて比較検討しました。
結果:
出産については、喘息女性と喘息の既往のない女性に差はありませんでした(aRR=1.02、95%CI:1.01-1.03)。しかしながら、喘息女性は不妊症治療を実施している割合は増加し、ARTが必要とされる女性が多くなりました(不妊治療; aRR = 1.29, 95% CI: 1.21-1.39, ART; aRR = 1.34, 95% CI: 1.18-1.52)。また、喘息女性では、流産リスク、妊娠損失を被るリスクが高く、aRR = 1.21, 95% CI: 1.15-1.28, そして誘発流産がより一般的で、aRR = 1.15, 95% CI: 1.11-1.20 という結果になりました。

≪私見≫

気管支喘息は、生殖年齢女性の有病率は8~10%と報告されています。
不妊との関係についてはさまざまな報告がなされています。生活習慣や服薬などで気管支喘息が落ち着いていると不妊リスクが軽減するという報告もあり、適切な気管支喘息の管理が必要だと感じています。以前 IgEと不妊との関連を調べた時には不妊との関係が否定的な論調でした。気管支喘息と不妊との関係はここ10年での報告がほとんどですので注目していきたいと思います。

・生殖機能に影響
Juul Gade, et al. 2014;Bláfoss, et al. 2019;Wasilewska and Małgorzewicz. 2019
・子宮内膜症との関連
Sinaii, et al. 2002; Kvaskoff et al. 2015; Peng et al. 2017
・PCOSとの関連
Zierau et al, 2019
・排卵障害との関連
Svanes et al. 2005; Wasilewska and Małgorzewicz. 2019
・流産率との関連
Blais et al. 2014; Turkeltaub, et al. 2019
・妊娠期間との関連
Gade, et al. 2014
・不妊治療増加との関連
Gade, et al. 2016; Vejen Hansen, et al. 2019

文責:川井清考(院長)

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