子供が欲しい人への妊活指導はカップルの精神的状態に影響を与える?(論文紹介)

妊娠可能な時期(排卵5日前から排卵日までの6日間)に夫婦生活を指導することで、妊娠までの期間が短くなるとされています。ただし、モニターされることへのストレス軽減のために1-2日おきに夫婦生活を持ってもらうことで妊娠率を同等に維持できるのではないかという考えもあり、わたしたちもプレコンセプションケアで妊娠を希望された場合は、まずは夫婦生活の持ち方を指導するようにしています。
では、妊娠を希望するカップルにとって、妊娠可能性を高めるための教育動画などはストレス、不安、うつ、性的機能に影響を与えるのでしょうか?こちらを調査した報告を紹介します。

≪ポイント≫

妊娠しやすい時期を動画などで指導されることはストレス、不安、うつ、性的機能には関係ありませんでした。抑うつ状態と性的機能不全は妊娠しない期間が長くなればなるほど増加しました。

≪論文紹介≫

Mariana V Martins, et al.  Hum Reprod. 2022 Oct 22;deac228.  doi: 10.1093/humrep/deac228. 

2016年7月から2019年11月にかけて、実施された前向き二重盲検3群間ランダム化比較試験です。参加者は、何も介入しない群、1日おきに夫婦生活をもつことで妊娠の可能性を高める方法を説明する短いアニメーションビデオをみてもらう群か、排卵日をモニターする群のいずれかに無作為に割り付けました。評価は介入前、介入後6週間、6ヶ月、12ヶ月に行われ、妊娠した場合は追跡調査を打ち切りました。
参加者は、積極的に妊活を行っている33歳前後のカップルで、不妊原因などは調査していません。過去に子供がいるカップルや避妊しているカップルは除外しています。主要評価項目はストレス、副次評価項目は不安、うつ、性的機能、妊娠率としました。主要解析は、intention-to-treat法で行いました。
結果:
無作為化された450名のうち、127名が隔日夫婦生活群、135名が排卵日モニター群、134名が非介入群としました。反復測定分析の結果、心理的および性的幸福の経時的なグループ間における差はありませんでした(P > 0.05)。ストレス、抑うつ状態、性機能に有意な時間的変化が認められましたが、不安では変化が認められませんでした。ストレスレベルは6ヵ月後に低下し(P < 0.001)、1年後のフォローアップではベースラインのレベルに戻りました。抑うつ状態は6週間後に有意に増加し(P = 0.023)、1年後に再び増加した(P = 0.001)。女性の性的機能のすべての次元(欲求、満足、覚醒、痛み、オルガスム、潤滑)で有意な減少がみられました。男性では、オルガズム、性交満足度、勃起機能に有意な変動がみられましたが、欲求と性的満足度に差はみられませんでした。
隔日夫婦生活群 16%、排卵日モニター群 30%、非介入群 20%でした。今回の検討では妊娠率に差がつきませんでした。

≪私見≫

妊活希望女性に対して、妊娠率を高める方法を指導することがカップルのストレス、不安、うつ、性的機能不全を助長しないことは以前の報告でもわかっています(Tiplady S, et al. Hum Reprod 2013;28:138–151)。
今回は、隔日夫婦生活群/排卵日モニター群/非介入群の妊娠率に差がつきませんでしたが主要評価項目ではなかった可能性が考えられます。排卵日モニター群が10%も妊娠率が高い結果となっていますので、排卵障害がある女性は、排卵日モニターのタイミング法が隔日夫婦生活群や自身での妊活より効果的なのかもしれませんね。

文責:川井清考(院長)

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