排卵周期とホルモン補充周期の凍結融解胚移植による周産期合併症の違い(論文紹介:その2)

「排卵周期凍結融解胚移植が周産期転帰がよい」という論文が最近続いています。こちらもご紹介させていただきます。

Louise Laub Asserhøj ら. Fertil Steril. 2021. DOI: 10.1016/j.fertnstert.2020.10.039

≪論文紹介≫

凍結融解胚移植の内膜準備プロトコルが異なると、周産期転帰が異なるかどうかを調べたコホート研究です。2006年から2014年までのデンマークにおける生殖補助技術後の全ての単胎分娩を対象としました。データは,体外受精の凍結融解胚移植で分娩となった1,136名(卵子提供や着床前遺伝子検査後の妊娠は除外)を対象としました。
ホルモン補充周期凍結融解胚移植(n = 357:hCGを投与していない症例)、修正自然周期凍結融解胚移植(n = 611:hCGと排卵誘発で投与した症例)、完全自然周期凍結融解胚移植(n =168:hCGと排卵誘発で投与していない症例)に分類しました。
評価項目として妊娠高血圧症候群、pPROM、前置胎盤、胎盤早期剥離、誘発分娩、産後出血、帝王切開、予定日超過分娩、早産、出生体重、SGA児、LGA児としました。
結果:
ホルモン補充周期凍結融解胚移植では、自然周期凍結融解胚移植(修正もしくは完全自然)と比較して、妊娠高血圧症候群、産後出血、および帝王切開のリスクが有意に高くなりました。出生体重が4,500gを超えるリスクは、自然周期凍結融解胚移植と比較してホルモン補充周期凍結融解胚移植で高くなりました。
結論:
この研究は、ホルモン補充周期凍結融解胚移植は、産科および周産期の転帰に悪影響を及ぼすことを示しています。したがって、可能であれば、黄体形成を伴う子宮内膜の準備を考慮すべきです。

≪私見≫

ホルモン補充周期凍結融解胚移植妊娠の産科・周産期の有害な転帰に関する結果は、デンマーク、スウェーデン、日本、中国、米国で最近発表された研究は同様の結果となっています。
研究に比較された対象者のホルモン補充周期凍結融解胚移植の割合は以下の通りです。スウェーデン、デンマーク、日本は国のレジストリなので、日本がホルモン補充周期治療が多いのがわかります。

  • デンマークの研究(今回の論文)
    ホルモン補充周期凍結融解胚移植:31%
  • スウェーデンの研究(Ernstad EGら. Am J Obstet Gynecol. 2019)
    ホルモン補充周期凍結融解胚移植:15%
  • 日本の研究(Saito Kら. Hum Reprod. 2019)
    ホルモン補充周期凍結融解胚移植:72%
  • 中国の研究(Jing Sら. J Assit Reprod Genet. 2019)
    ホルモン補充周期凍結融解胚移植:24%
  • 米国の研究(Makhijani Rら. Reprod Biomed Online. 2020)
    ホルモン補充周期凍結融解胚移植:50%

胎盤関連の合併症を引き起こす可能性がありますが、比較的古い論文です。実際のところは、排卵周期で必ずできる黄体からのリラキシンふくめて他の物質の重要性が最近では胎盤形成に重要なのではないかとされています。
初期の高プロゲステロン状態は妊娠高血圧症候群と関連するという報告
(Tamimi Rら.Cancer Epidemiol Biomark Prev.2003)
初期の低プロゲステロン状態は癒着胎盤と関連するという報告
(Jauniaux Eら. Placenta.2012)

妊娠高血圧症候群の危険因子としては、多胎妊娠、母親年齢が40歳以上、肥満、多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)などが挙げられています。母体の状態を加味して移植方法を選択する時代になってきたのかもしれません。
本邦における凍結融解胚移植の周産期予後
排卵周期とホルモン補充周期の凍結融解胚移植による周産期合併症の違い(論文紹介)
凍結融解胚移植による周産期合併症について

文責:川井清考(院長)

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