異所性妊娠は体外受精の刺激周期によって発生率が違うの?(論文紹介)

これまでの研究では、凍結融解胚移植よりも新鮮胚移植の方が異所性妊娠の発生率が有意に高いことが報告されています。新鮮胚移植周期で異所性妊娠のリスクが高まる理由の一つとして、ホルモン環境の変化、子宮内膜の遺伝子発現や血管新生の変化が問題視されています。子宮内膜の厚さや卵巣予備能との関連を示唆する論文もありますが、今のところ原因は解明されていません。
今回、日本のレジストリを用いた新鮮胚移植の刺激周期別の異所性妊娠のリスクを説明した論文がでてきましたのでご紹介いたします。

≪論文紹介≫

Seung Chik Jwaら.Fertil Steril. 2020.  DOI: 10.1016/j.fertnstert.2020.06.032

異なる卵巣刺激プロトコールによる新鮮周期の子宮外妊娠のリスクを評価することを目的にデータベースを用いて行った後ろ向きコホート研究です。
2007年から2015年に新鮮単一胚移植後に行われた68851名の臨床妊娠を対象とし、評価項目として異所性妊娠としました。
結果:
68,851名の臨床妊娠のうち、1,049名(1.46%)の異所性妊娠が報告されました。自然周期と比較して、すべての卵巣刺激プロトコルは異所性妊娠のリスクを有意に増加させました。クロミフェンを用いた卵巣刺激では異所性妊娠のオッズ比が最も高くなりました。自然周期と比較した卵巣刺激プロトコルと異所性妊娠との有意な関連性は、回収卵子数が少ない場合(1~3個)から中程度の場合(4~7個)に顕著でしたが、回収卵子数が多い場合(>8個)には有意な関連性はありませんでした。
結論:
卵巣刺激プロトコールは、異所性妊娠のリスク増加と有意に関連していました。特に、クロミフェンによる卵巣刺激は、他の刺激プロトコールと比較して、異所性妊娠のリスクが最も高くなりました。

Osamu Ishiharaら. Fertil Steril. 2011.  DOI: 10.1016/j.fertnstert.2011.02.015. 

石原らは、以前、同じように日本の生殖補助医療のレジストリをつかって、新鮮胚移植周期が凍結融解胚移植周期より異所性妊娠のリスクが有意に高いことを報告しています。
新鮮胚移植(初期分割期胚):2.4%
新鮮胚移植(胚盤胞期胚)):1.8%
凍結融解胚移植(初期分割期胚):1.8%
凍結融解胚移植(胚盤胞期胚): 0.8%
参考:今回の基準点である自然周期の新鮮胚移植の異所性妊娠率 0.5%
自然周期の異所性妊娠率(0.5%)とやや類似していました。

新鮮胚と凍結融解胚の違いは子宮内環境の違い(ホルモン環境の違い)が問題視されていますし、今回のクロミフェン周期の異所性妊娠率が高いのはクロミフェン特有の子宮内膜に作用する機序ゆえに起こるのではないかとされています。
胚盤胞胚移植は、初期分割期移植と比較して異所性妊娠のリスクを19%減少させていました。過去の多くの研究では、胚盤胞移植により異所性妊娠のリスクが同様に低下することが示されています。胚盤胞胚移植が異所性妊娠のリスクが減少した理由として、いくつかの可能性が示唆されています。胚盤胞の大きさが初期分割期胚に比べてサイズが大きいため、卵管内での移動が妨げられる可能性がある、初期分割期胚は着床までの時間が長いため卵管内を移動する機会が多い、子宮の収縮運動が排卵後5日目の胚盤胞移植の頃には減ってくるので初期に戻した胚ほど卵管内を移動する可能性が高いなどです。

≪私見≫

体外受精での異所性妊娠は、開院してから覚えられるくらいしか起こっていない合併症です。ただし、一定頻度は起こりますので、異所性妊娠リスクが高い患者様には上記リスクについて説明の上で治療選択を行なっていきたいと思います。
異所性妊娠リスクが高い患者様には、この流れで見ると凍結融解胚盤胞移植ですね。

文責:川井清考(院長)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのブログです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。

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