体外受精治療が自然妊娠にくらべて上がる合併症は?(論文紹介)

患者様から「私がタイミング・人工授精妊娠するのと体外受精妊娠するのとで合併症率が変わりますか?変わらないなら体外受精へのステップアップも考えたいのですが」という質問をよく受けます。私の個人的な見解では、次のように伝えています。「体外受精治療を行うと自然に準じた妊娠過程とはやや異なるため、全く一緒とは言えませんが合併症が出ないように改良され、辿り着いたのが現在の体外受精であるため、妊娠するために体外受精の必要があれば治療を受けることに意味があるのではないでしょうか。若い女性年齢による体外受精妊娠と高齢女性での自然妊娠では年齢による周産期合併症リスクの方が色濃くでます。」
患者様からの質問も私の答えもとても曖昧ですよね。患者様個々の要因によるので、なかなか一般論で申し上げづらい内容でもあるのです。
同じ女性からの自然妊娠・体外受精妊娠の分娩予後を比較したらどうだったか?という報告をご紹介させていただきます。

Hadas Ganer Hermanら.2020 DOI:10.1016/j.fertnstert.2020.10.060

≪論文紹介≫

体外受精(IVF)を用いて妊娠した場合と、同じ女性の自然妊娠との産科的および周産期の転帰を比較する。
2008年11月から2020年1月まで、Edith Wolfson Medical Centerで連続したライブ単発分娩(妊娠24週以上)の女性を対象とし卵子提供による体外受精妊娠は除外しました。マッチドケースコントロール研究で、各体外受精による妊娠を同じ女性の自然妊娠(1:1の比率)と一致させ早産、SGA、妊娠高血圧症候群を検証しました。
51,061件の分娩中、49,244件が生の単胎分娩であり、同じ女性で体外受精妊娠と自然妊娠の両方により分娩に至った532人の女性(体外受精妊娠:544例、自然妊娠:544例)を対象としました。292人の女性(53.7%)では、自然妊娠が体外受精妊娠に先行しており、分娩間の期間中央値は 50 ヵ月でした。出産時の母体年齢は体外受精妊娠群の方が高い傾向となりました(32.7 5.2歳 vs 29.7 5.4歳、P<0.001)。
分娩週数と早産、妊娠高血圧症候群、吸引/鉗子分娩、帝王切開分娩、およびSGAの割合は、体外受精と自然妊娠の間で同等でした。新生児の出生体重は体外受精妊娠の方がわずかに低くなりました。多変量解析では、交絡因子を調整した後、体外受精は早産、妊娠高血圧症候群、およびSGAとは独立して関連していませんでした。

結論:
マッチドケースコントロール研究デザインで体外受精と自然妊娠の産科学的転帰を比較した場合、交絡因子を調整した後の体外受精は、PTB、SGA、または妊娠誘発性高血圧のリスク増加とは関連していませんでした。

≪私見≫

現在までこの論文と類似する、同じ女性の体外受精と自然妊娠での分娩結果を比較した調査が2つのグループから報告されています。Henningsenら(デンマークのDanish Medical Birth Registry)とRomundstadら(ノルウェーのNorwegian Medical Birth Registry)が比較したデータでは、体外受精妊娠では出生体重の低下、出生週数が早まり、早産と低出生体重の割合が高くなっていました。
現在では凍結胚を用いた胚盤胞移植が世界的に主流となってきており、低出生体重より体重増加が指摘されています。現在の体外受精治療に準じた比較が必要と考えますが、このような研究結果には長い時間経過が必要なため、現状を理解するうえでは参考となる報告と考えています。

文責:川井(院長)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのブログです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。

亀田IVFクリニック幕張