女性の肥満は流産に影響するの?(論文紹介)

女性の肥満は、国内では日本肥満学会の基準により妊娠前BMI 25-を肥満と定義、海外ではBMI 30以上と肥満と定義し、BMI 25.0-29.9をoverweightと分類されています。海外ではBMI 30-39.9の女性はBMI<30の女性に比較して妊娠高血圧合併・妊娠高血圧腎症合併、妊娠糖尿病、巨大児のリスクが高く、初産婦の帝王切開率は高くなっています。また死産や二分脊椎をはじめとした様々な先天異常が増加するという報告もあります。日本人を対象とした調査でも妊娠前体重がBMI 25-30、BMI 30-の妊婦は標準体重妊婦に比べて、妊娠高血圧合併、妊娠糖尿病、巨大児、帝王切開率のリスク上昇が報告されています。
これらのことを考えると、生殖医療の立場からは「女性の肥満は受精卵の質なの?着床後の障害なの?」という疑問が生まれると思います。これらの一つの答えとなる論文をご紹介させていただきます。

Mauro Cら. Fertil Steril. 2020 DOI: 10.1016/j.fertnstert.2020.09.139.

≪論文紹介≫

BMIが着床前診断をおこなった正常核型胚を移植した時の流産リスクの増加と関連しているかどうかを検討しています。後方視的な多施設共同研究です。
スペインの体外受精センターで2016-2018年に行われた体外受精(卵巣刺激:HMGアンタゴニスト)3,480周期を行い、胚盤胞期胚で着床前遺伝子検査(PGT-A)を実施し、女性患者のBMIに応じて4つのグループに分けて生化学妊娠率および臨床流産率を検討しました。その他、着床率、妊娠率、臨床妊娠率、および出生率も補足的に検討しています。
結果:
BMI(kg/m2)の分類は①低体重(-18.5;n= 155)、②正常体重(18.5-24.9;n= 2,549)、③過体重(25-29.9;n= 591)、④肥満(30-;n= 185)としました。患者1人あたりのPGT-A周期数、刺激方法、胚移植方法は、4群でほぼ同割合でした。臨床結果として、正常受精率、胚盤胞の生検できた割合、胚生検できた培養日数(5日目か6日目か)、正常核型胚の数、移植できる胚の数は変わりませんでした。流産率は、④肥満の女性が②正常体重の女性に比べて有意に高い結果となりましたが、これは主に臨床流産率の有意な上昇によるものであり、生化学妊娠には差が認められませんでした。また、出生率も④肥満の女性では低い結果となりました。
結論:
肥満の女性は、正常な体重の女性に比べて、正常核型胚を移植したときの流産リスクが増加しました。

≪私見≫

初期流産の主な原因が胚の異数性であることを考えると肥満によっての流産率の増加は、受精卵の染色体異常が原因なのかなと思っていましたが、今回の結果を踏まえると妊娠後に影響を与えて流産が増えていることが考えられますね。
過去の論文(Provost MPら. Fertil Steril 2016)で、卵子提供で得られた受精卵を肥満女性患者に移植した場合も臨床流産が増加していることを考えると、やはり着床後の子宮/胎盤への障害が胚の発育に影響を与えているんだろうと思います。
可能性のあるメカニズムはまだ未解決のままですが、子宮内膜受容性の変化が二次的におこり着床率の低下や臨床流産の上昇、着床後の胚発育不全、周産期合併症の増加に影響をあたえている可能性もあります。
DOHaD (Developmental Origins of Health and Disease)理論の「将来の健康や特定の病気へのかかりやすさは、胎児期や生後早期の環境の影響を強く受ける」という考え方は周産期分野では研究が進んでいますが、生殖医療の段階と連続性があることだと思います。今後も注目していきたいと思います。

文責:川井(院長)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのブログです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。

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