ロング法とアンタゴニスト法の違い(論文紹介)

最近、色々な卵巣刺激がでてきました。以前から行われているロング法、アンタゴニスト法、ショート法、クロミッドHMG法、クロミッド法、自然法だけなら話は簡単でしたが、これに加え、刺激時期を排卵後からでも行えるランダムスタート法、一周期に2回採卵を行うダブルスティミュレーション法、最近増えてきている黄体ホルモンを用いた卵巣刺激PPOS(Progestin-primed ovarian stimulation)法など、様々な刺激があります。
それぞれの刺激に特徴があり、妊娠率の上昇、合併症の軽減、費用対効果の向上、受診回数の調整を目的に患者様に個別に応じた卵巣刺激を選択されているのだと思います。
当院で毎日注射をうつ卵巣刺激を選択した場合、不妊原因や通院方法に応じてHMGアンタゴニスト法、ロング法をメインに使いわけています。ロング法は治療に2周期かかることもあり以前より使用されることが減少してきていると思いますが、最もクラシカルな良い刺激だと思っています。アンタゴニスト法、ロング法を比較した論文をご紹介させていただきます。

C B Lambalkら.Hum Reprod Update. 2017. DOI: 10.1093/humupd/dmx017.

≪論文紹介≫

卵巣予備能が一般的な不妊患者、PCOS患者、卵巣機能不全患者の体外受精を実施する際の卵巣刺激(アンタゴニスト法、ロング法)を比較しました。
Cochrane Menstrual Disorders and Subfertility Review Group対照試験、PubmedおよびEmbaseデータベースを2016年6月まで検索しました。主要アウトカムは妊娠継続率、副次アウトカムとして、出生率、臨床妊娠率、回収卵子数、卵巣過剰刺激症候群(OHSS)発生率を検討しました。
50件の対象となる研究(卵巣予備能が一般的な不妊患者:34件、PCOS患者:10件、卵巣機能不全患者:6件)が選択しました。卵巣予備能が一般的な不妊患者では、アンタゴニスト法とロング法と比較して妊娠継続率が有意に低くなりました(RR: 0.89、95%CI 0.82-0.96)。PCOS患者、卵巣機能不全患者では、アンタゴニスト法とロング法に妊娠継続率の差は認められませんでした(RR: 0.97、95%CI: 0.84-1.11、RR: 0.87、95%CI: 0.65-1.17)。

ロング法と比較したアンタゴニスト法のサブグループ解析では、前周期にピルを内服した場合、卵胞サイズとホルモン値をみて刺激方法を調整するflexibleアンタゴニスト法は妊娠継続率が低い傾向がありました(RR: 0.74、95%CI 0.59-0.91)が、前周期にピルを内服しない場合は差がありませんでした(RR: 0.84、95%CI 0.71-1.0)。
アンタゴニスト法は、卵巣予備能が一般的な不妊患者、PCOS患者でOHSS率を有意に低下させました(RR: 0.63、95%CI: 0.50-0.81、RR: 0.53、95%CI : 0.30-0.95)。

≪私見≫

一般的な体外受精集団においては、アンタゴニスト法はロング法に比べて妊娠継続率が低くなりますがOHSS発生率も低下します。この頃の妊娠継続率は今のように全胚凍結をメインとした成績ではなく新鮮胚移植メインの成績なので鵜呑みにするのは危険ですが、これらの結果からロング法がアンタゴニスト法に一般集団で劣っているのは卵巣刺激の期間の長さとOHSSの発症率のみとなります。
ちなみに、ここでいうアンタゴニスト法はレルミナを使用した卵巣刺激ではないことをご了承ください。
前周期にピルを内服した場合というのはERA検査直後やHRTで妊娠反応陰性直後が同様のパターンにあたりますので、ロング法・アンタゴニスト法を柔軟に使い分けていければと思っています。

「一番あった刺激を選んでほしい」「前のクリニックでは、このような刺激をされたが、何故なんですか」などの質問をされる患者様がいらっしゃいますが、私の前に座りこのような質問をされる患者様は、少なからず前医で妊娠に至らずに当院に来ていただいている場合ですので、前医で患者様が受けた刺激に対して重箱の片隅を探して否定をするような発言をすることはしないようにしています。
少なくとも、医療者は患者様に対して妊娠してほしいという気持ちのもと医療を行なっておりますので、結果としてうまくいかないことがあったとしても、これを参考によりよい治療に結びついて妊娠・分娩にたどりつけばいいのかと思っています。

ただ、患者が不安に思う理由としてもガイドラインがないがゆえ治療のフレキシブルさ(これゆえに生殖医療が発展したというメリットもございますが…)や患者様自身がSNS/ブログなどで興味ある内容だけを情報収集しやすくなったという時代背景もあります。少なからず私達のクリニックにたどりついて信頼関係を築いて治療を受けてくださっている患者様には不利益がないよう努めたいと思います。

文責:川井(院長)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのブログです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。

亀田IVFクリニック幕張