排卵周期凍結融解胚移植の適切な移植時期は?(論文紹介)

私たちのクリニックの凍結融解胚移植の内膜作成のプロトコールでは、2016年当初はホルモン補充周期と排卵周期の割合がほぼ同等だったのですが、ERA検査の導入(再現性の大事さ)と採卵後翌周期はホルモン補充周期の成績がよかったことから2019年はホルモン補充周期:排卵周期=4:1となりました。最近、ホルモン補充周期で妊娠に至らない患者様のうち、排卵周期を用いて妊娠されるかたが一定数いることから、凍結できている受精卵数や患者様の通院可能頻度にもよりますが、凍結融解胚移植は初回:ホルモン補充周期、2回目:排卵周期で行うことを提案しています。ただ、排卵周期の一番難しいのは再現性をあわせることです。さまざまな論文発表がありますが、プロトコールが各々であり当院のプロトコールに近いものがありませんでした。
今回ご紹介するプロトコールは当院のものと、とても近いこともありご紹介させていただきます。

J K Johal, et al. J Assist Reprod Genet. 2020. DOI: 10.1007/s10815-020-01994-1

≪論文紹介≫

方法:
2016年5月から2019年3月までに単一の学術機関で行われた347名の正常核型胚盤胞を用いたすべての排卵周期凍結融解胚移植(女性採卵時平均年齢:35.9歳、BMI 25.1 未産婦 65.4%)を後方視的に評価しました。排卵周期凍結融解胚移植の標準プロトコールには、超音波モニタリングと、優性卵胞と子宮内膜が適切に発達した場合の hCG トリガーを実施いたしました。患者は排卵が予想される3-4日前から超音波と採血を実施し、卵胞径 >15mm、子宮内膜厚 >7mmを超えるトリガーのタイミングをチェックします。トリガーが適切と判断した日(下記表参照)の血清LH、エストラジオール、プロゲステロンをチェックしLHが20mIU/mL以上であれば、その日にトリガーを投与し、排卵後5日後の移植をイメージして、サージの6日後(LH/HCG+6)にFETを実施しました。LHが20 mIU/mL未満の場合は、トリガーの7日後にFETを実施しました(hCG+7)。トリガーにはrecombinant hCG250 mcgを使用し、黄体補充は2w3dからルティナス200mg/day、もしくはワンクリノン8%gelを使用し6-7週まで継続使用しています。主要転帰は、臨床妊娠率と出生率としました。
周期間の相関を考慮するために、多変量ロジスティック回帰のGEE法を用いました。

結果:
排卵周期凍結融解胚移植の周期は453周期で、205回がLH/HCG+6群、248回がHCG+7群でした。全体の臨床妊娠率は64%、臨床流産率は4.8%で、両群間では差がありませんでした。全体の出生率は60.9%(LH/HCG+6群61.0%、HCG+7群60.9%)で同様に差がありませんでした。GEE法を使用しても、臨床妊娠率(aOR 0.97、95%CI [0.65~1.45]、p=0.88)と出生率(aOR 0.98、95%CI [0.67~1.45]、p=0.93)のオッズは両群間で差がありませんでした。

  LH/hCG + 6 hCG+ 7
子宮内膜厚(mm) 9.3 (1.5) 9.0 (1.4)
LH値 (mIU/ mL) 46.5 (25.1) 10.8 (5.1)
ピークE2値 274.8 (94.2) 244.4 (96.9)
P4値 0.7 (0.3) 0.3 (0.2)

≪私見≫

現在までのレビューでは排卵周期はホルモン補充周期凍結融解胚移植に比べて劣っていないことが支持されています。さらに排卵周期では妊娠中の高血圧性障害、母体の心臓血管障害を減少させる可能性、絨毛膜下血腫の減少なども期待されています。私たちも排卵周期凍結融解胚移植を徐々に増やしており、現在月単位でみるとホルモン補充周期:排卵周期=3:1程度になってきています。

ERA検査の内膜のずれは、着床にとって重要な項目ですが、着床できる時間は一定の幅があり、排卵周期でも再現性をもったプロトコール作成が可能は最近判断しています。患者様の状態に応じて治療選択の幅を広げていきたいと思います。

文責:川井(院長)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのブログです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。

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