体外受精患者の死産に対するメタアナリシス(論文紹介)

体外受精に関わっていると、患者様に一人でも多く妊娠して欲しいですし、後悔が残らない治療を提供したいと思いながら治療に関わりますが、妊娠し卒業された後も、「無事出産に至ったかな?合併症大丈夫だったかな?」と日々考えています。
日本では、日本産科婦人科学会が実施する調査に対し、体外受精-胚移植を行った患者様の結果を報告する義務があるので、卒業後の周産期結果を見て治療方法を見つめ直すことが日常となっています。
患者様が卒業後に辛いと思うのが流産・死産です。Dongarwarらが報告したアメリカの大規模な研究(14,017,394人)では死産の割合は全体で0.5%、体外受精で1.0%となり、体外受精では死産リスクが軽度上昇しています(HR [95% CI], 1.21 [1.09-1.33] )。今回、体外受精患者の死産率に対するシステマティックレビュー・メタアナリシスが報告されましたのでご紹介します。

≪論文紹介≫

Sarmon KG, et al. Fertil Steril. 2021. DOI: 10.1016/j.fertnstert.2021.04.007
単胎出産に限定して,自然妊娠と体外受精の死産リスクを比較検討しました。
明らかにするため、オンラインデータベース(PubMed,Embase,Scopus)を用いて系統的な文献検索と行いました。今回、死産の定義を研究の質を限定するため、妊娠20週から分娩までの胎児死亡と期間を限定しています。
結果:
合計19件の研究が含まれ、研究の質は様々でした。体外受精では自然妊娠に比べて死産リスクが高くなりました(オッズ比[95%CI]:1.82 [1.37-2.42])。
死産のリスク因子
・凍結融解胚移植周期と新鮮胚移植周期
3件の論文で比較検討されています。
Bay B, et al. BJOG 2019:新鮮胚移植のみ自然妊娠に比べ軽度上昇
Marino JL, et al. PLoS One 2014:新鮮胚移植のみ自然妊娠に比べ軽度上昇
Pelkonen S,et al. Hum Reprod 2010:新鮮胚移植/凍結融解胚移植で差なし
今回のレビューでは結論に至らないとしています。
・媒精(IVF)と顕微授精(ICSI)
3件の論文で比較検討されています。
Marino JL, et al. PLoS One 2014:IVFの方がICSIより軽度上昇
Henningsen AA, et al. Hum Reprod 2014:IVF/ICSIで差なし
Bay B, et al. BJOG 2019:ICSIでIVFに比べ軽度上昇

≪私見≫

体外受精妊娠は死産リスクとなっている結論ですが、報告者らのディスカッションでも「治療」そのものより「体外受精しないと妊娠しないカップル」の要因が影響を与えているのではないかとしています。胎児にとって、体外受精ではないと妊娠しづらかった物理的環境、ホルモン的環境が死産に影響を与えている可能性もあります。
Helmerhorst FMらが BMJ 2004が報告したレビューでも周産期死亡(妊娠20週以降、分娩1週間以内の新生児死亡)では、単胎児では今回の結論と同様に死産率が自然妊娠に比べ上昇(リスク比[95%CI]、1.68[1.11-2.55])していますが、双胎児では、体外受精が自然妊娠に比べ死産率が低くなりました(リスク比[95%CI]、0.84[0.53-1.32])。
この結論をみると、卵子・精子の染色体の微小欠失などが死産に影響を与えている可能性も否定できません。
体外受精を行なっている・これから実施する患者様の不安を助長するつもりは全くありませんが、私たち生殖医療に関わるものは、ネガティブな結果から目を背けるのではなく、理解しながら患者様によりよい医療を提供する努力を行なっていくべきなんだと感じています。

文責:川井清考(院長)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのブログです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。

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