反復流産既往女性は妊娠時に胎盤異常をおこしやすい(Fertil Steril. 2023)
2回以上の流産既往がある患者様を妊娠時に、どのような周産期施設にご紹介するか迷うことがあります。反復流産の原因が見つかっていれば高次施設に紹介しますが、原因が見つからなかった場合には周産期リスクがあがるのでしょうか。
≪ポイント≫>
反復流産既往がある女性は、流産が連続しているかどうかに関わらず、早発性妊娠高血圧腎症、早産、前置胎盤、癒着胎盤などの周産期リスクが高いことがわかりました。
≪論文紹介≫
Jinwen Zhang, et al. Fertil Steril. 2023 Sep;120(3 Pt 2):626-634. doi: 10.1016/j.fertnstert.2023.04.028.
連続の有無に関係しない反復流産既往が、妊娠24週以降の周産期有害事象と関連があるかどうか調査したレトロスペクティブ・コホート研究です。
2014年1月から2021年8月に妊婦健診・分娩を予約したすべての女性レコードを対象としました。単胎妊娠女性に限定し、一人につき一人の登録までとし108,792件の分娩を解析対象としました。2回以上の流産歴がある女性1,994人(1.83%)、1回流産歴がある女性11,477人(10.55%)、流産歴のない女性95,321人(87.62%)において、妊娠24週以降の周産期有害事象を比較しました。
主要評価項目として、妊娠糖尿病、妊娠高血圧腎症(早発型と遅発型)、前置胎盤、癒着胎盤、胎児発育遅延、緊急帝王切開、選択的帝王切開、分娩誘発、分娩後大量出血、早産、死産、5分後のアプガースコア7未満、新生児仮死、新生児性別、先天性奇形、低出生体重、新生児死亡としました。
結果:
交絡因子を調整した後、反復流産既往がある女性では、胎盤機能障害(早発性妊娠高血圧腎症(RR 1. 58;95%CI 1.03-2.32)、早産(RR 1.34;95%CI 1.15-1.54)]、胎盤異常(前置胎盤(RR 1.78;95%CI 1.36-2.28)、癒着胎盤(RR 4.19;95%CI 2.75-6.13)が上昇しました。
≪私見≫
妊娠34週までに発症する早発型妊娠高血圧腎症では、妊娠10-14週に起こる絨毛外トロホブラスト(EVT)の子宮筋層内への浸潤が不十分であり、子宮の螺旋動脈壁の平滑筋層の破壊が起こらず、血管内皮がEVTにより置換される螺旋動脈のリモデリング不全が認められます。結果として、絨毛間腔に流入する母体血流量が減少し、血管腔も細いことのよる螺旋動脈の血流速度の増加による流圧も上昇も起こり絨毛を障害します。血管新生因子・阻害因子の不均衡により全身性血管内皮障害を引き起こし、高血圧・蛋白尿・全身臓器障害が起こるとされています。反復流産では、上記のイベントが起こっていることが推測されます。
妊娠初期にはリスク因子を把握し、妊娠している女性に適切な説明をおこなっていくことが必要なんだと思います。
文責:川井清考(院長)
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