着床前検査(TE生検)後妊娠の周産期予後(論文紹介)

患者様から「着床前診断は妊娠した後の影響はどうですか?」と質問をよく受けます。2023年にでたレビューをご紹介します。着床前検査後に妊娠した場合、周産期、新生児、長期予後リスクを検討したレビューの胚盤胞期のTE生検にのみフォーカスをあててまとめました。

≪ポイント≫

着床前検査(TE生検)後の周産期、新生児、長期予後リスクに対してのエビデンスはまだまだ不足していて一定の見解を出すことはできませんでした。
起こりうる可能性として否定できないのは、妊娠高血圧症候群、早産、先天性障害です(長期予後はデータがありませんでした)。これらの所見は、他の胚操作手順、着床前検査をうける患者背景などが交絡因子となっている可能性も十分考えられるため、これから結論がでてくる分野だと感じています。

≪論文紹介≫

Alessandra Alteri, et al. Hum Reprod Update. 2023 Jan 19;dmad001. doi: 10.1093/humupd/dmad001.

レビュー方法として、スコープレビューの手法を用い、最終的に31報告を対象としました。
① 早産
9件の研究があり、2件は早産率増加を報告しており、他7件は差を認めませんでした。Formanらは2個胚移植と正常核型1個移植では早産率は双胎発生のため非生検2個胚移植は早産率を高める要因とするとしていますが、生検による直接的な早産率の変化と考えられないため議論から外しています。
キーとなるのはSART-CORSデータベースに基づくレトロスペクティブコホート研究です。TE生検胚(n = 6244)の移植による単胎児は、非TE生検胚盤胞(n = 10002)に由来する胎児と比べて早産リスクの上昇[aOR 1.20, 95% CI 1.09-1.33]を認めており、サブグループ解析でも同様の結果を示しています(Li M, et al. Am J Obstet Gynecol. 2021)。現段階では着床前検査実施では早産率上昇の可能性が否定できないという結論としています。
② 妊娠高血圧症候群
5件の研究があり、すべての研究において母親年齢やBMIなどの交絡因子で調整されていても矛盾する結果が報告されています。Zhangら(2019)とMakhijani ら(2021)は妊娠高血圧症候群増加を懸念する結果を報告していますが、Luら(2020)、Sitesら(2021)、Swansonら(2021)は妊娠高血圧症候群との関連を否定する報告を示しています。
③ 胎盤異常
4件の研究とも胎盤異常リスク上昇は認めていません。
④ 妊娠糖尿病
4件の研究とも妊娠糖尿病リスク上昇は認めていません。
⑤ 出生体重
8件の研究において、単胎児の出生時体重、低出生体重、超低出生体重児の割合は、交絡因子を調整してもリスク上昇はありません。
⑥ SGA、LGA
2件の研究ともSGA、LGAリスク上昇は認めていません。
⑦ NICU入院
2件の研究ともNICU入院リスク上昇は認めていません。
⑧ 先天性障害
3件の研究があり、1件の研究で先天性障害は全体的には差を認められませんでしたが、一部の先天性障害(arachnoid cysts, ventricular septal defects, auditory canal malformations, Marfan syndrome, renal cysts, pyelektasis)などが上昇するのでは?という結果となっています。ただし、症例数がtotal 258症例の小さい症例数でのサブグループ解析であること、信頼区間が広いこと、再現する研究がないことから慎重に解釈する必要がありそうです(Zhang WY, et al. Fertil Steril. 2019)
⑨ 長期予後
TE生検に関する長期予後の報告は現時点で、なされていません。

文責:川井清考(院長)

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