排卵周期凍結融解胚移植時のプロゲステロン腟剤使用は心身ウェルビーイングに影響する?(Hum Reprod. 2023)

排卵周期凍結融解胚移植はホルモン補充周期時と異なり、プロゲステロン腟剤使用は必須ではありません。ただし、成績の改善のために用いられることが多くあります。
プロゲステロン腟剤の利点は、着床にとって重要なプロゲステロンの子宮内膜組織濃度を子宮初回通過効果(First uterine pass effect)により最も安定した状態に保つことができること(Cicinelliら、2000)、筋肉内注射と比較して疼痛含めた副作用が少ない点になります。反面、腟プロゲステロンには、腟からの刺激や分泌物増加、腹痛、便秘、膨満感、乳房圧痛、気分変動、抑うつ症状など、稀ではありますが副作用もないわけではありません(Ngら、2007;Alsbjergら、2020;Pietteら、2020; Warrenら、2018)。排卵周期凍結融解胚移植時のプロゲステロン腟剤使用は心身ウェルビーイングに影響するかどうか調査した報告をご紹介いたします。

≪ポイント≫

排卵周期凍結融解胚移植時のプロゲステロン腟剤使用は、身体的不快感を経験しやすかったものの、心理社会的幸福感には差を認めませんでした。

≪論文紹介≫

Clara Colombo, et al. Hum Reprod. 2023 Aug 26;dead171. doi: 10.1093/humrep/dead171.

修正排卵周期凍結融解胚移植を受ける女性において、黄体期サポートとして腟プロゲステロンの有無により心身ウェルビーイングに差があるか、現在進行形のRCTのサブ解析として行った研究です。RCTは2019年からデンマーク8生殖医療施設で修正排卵周期凍結融解胚移植の腟プロゲステロンの有用性を検討する調査で現在進行形ですが、今回のサブ解析は2019年8月に286名に対して行われました。
月経周期2-5日目と胚盤胞移植後の2回、腟プロゲステロンの投与群143名、非投与群143名にアンケートと行いました。腟プロゲステロンの投与群は投与後7日目としました。心理社会的幸福に関する項目は、Copenhagen Multi-Centre Psychosocial Infertility-Fertility Problem Stress Scale(COMPI-FPSS)およびMental Health Inventory-5に由来した質問を行いました。
結果:
腟プロゲステロン投与された女性は、非腟プロゲステロン投与群の女性よりも腟のかゆみ・ほてりを多く経験していました(P < 0.001)。腟プロゲステロン投与された女性は真菌感染が多い傾向にありましたが、多重検定後では差と認めませんでした(P/調整後P = 0.049/0.881)。心理社会的幸福感に関しては、差を認めませんでした。腟プロゲステロン投与された女性は、「落ち込んだり、ブルーになったり」することが少なくなる方向へのシフトする傾向が認められました(P < 0.001)。

≪私見≫

排卵周期凍結融解胚移植の最適化や個別化方法はこれからまだまだ議論される内容だと思っています。下記ブログも参考になさってみてください。

文責:川井清考(院長)

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