レトロゾール排卵周期凍結胚移植は周産期合併症と無関係(レトロスペクティブコホート 2022)

先日、レトロゾール排卵周期凍結胚移植は早産率・低出生体重児と関連するかも?という論文をご紹介いたしました。このグループはレトロゾール内服下では低エストラジオール状態が一部の症例で発生するため、この影響が生殖医療予後に影響を与えているのではないか?と考えているようです。
レトロゾール排卵周期凍結胚移植の低E2濃度は悪影響?(レトロスペクティブコホート 2021)
レトロゾール排卵周期凍結胚移植は早産率と関係する?(レトロスペクティブコホート 2023)
これに対して、影響は与えないのではないか?とする国内からの報告をご紹介いたします。

≪ポイント≫

自然排卵周期とレトロゾール排卵周期での単一凍結融解胚盤胞移植では、生殖医療成績も周産期合併症も変わらない結果となりました。本論文は国内からの報告でありビッグデータでの評価となるため、適切な管理下であればレトロゾール排卵周期での単一凍結融解胚盤胞移植は有効な方法でありそうです。

≪論文紹介≫

Kenji Ezoe, et al.  BMC Pregnancy Childbirth. 2022 Nov 7;22(1):824.  doi: 10.1186/s12884-022-05174-0.

レトロゾールによる子宮内膜準備が、排卵期の患者における単回ガラス化温存胚盤胞移植(SVBT)後の妊娠経過、周産期経過、先天性異常に影響するかどうかを、自然周期と比較しながら検討しました。

原因不明不妊症に対して2015年7月から2020年6月に自然排卵周期とレトロゾール排卵周期のどちらかで単一凍結融解胚盤胞移植を受けた14,611人を対象としました。結果に影響を与える可能性が高い因子を傾向スコアマッチングに用い、レトロゾール排卵周期群1,911人を自然排卵周期群12,700人とマッチングし、各群1,910人を後方視的に分析しました。それぞれの周期の卵胞・内膜厚、ホルモン動態、周産期転帰(臨床妊娠率、継続妊娠率、生児獲得率)、周産期合併症および先天異常発生率を、両群間で統計的に比較しました。

結果:
多変量ロジスティック回帰分析により、単一凍結融解胚盤胞移植におけるレトロゾール排卵周期は、生児獲得率を有意に改善しました(P = 0.0355)。在胎週数、母体合併症、帝王切開、早産 (<37 週) 、低出生体重児(<2,500 g) 、SGA
児、LGA児、先天異常は差を認めませんでした。

≪私見≫

この報告は周産期結果もレトロゾール排卵周期群808人を自然排卵周期群746人とビッグデータによる報告となっています。

  自然排卵周期群:746人 レトロゾール排卵周期群:808人
女性年齢(歳) 35.5 ± 0.1 35.6 ± 0.1
BMI 20.6 ± 0.1 20.8 ± 0.1
周産期合併症(症例数と割合) 37 (5.0) 52 (6.4)
HDP(症例数と割合) 8 (1.1) 3 (0.4)
妊娠糖尿病(症例数と割合) 4 (0.5) 7 (0.9)
HELLP症候群(症例数と割合) 0 (0) 1 (0.1)
前期破水(症例数と割合) 1 (0.1) 4 (0.5)
低置胎盤(症例数と割合) 4 (0.5) 4 (0.5)
前置胎盤(症例数と割合) 9 (1.2) 10 (1.2)
常位胎盤早期剥離(症例数と割合) 1 (0.1) 2 (0.3)
帝王切開率(症例数と割合) 220 (29.5) 216 (26.7)
在胎週数 39.0 ± 0.1 39.0 ± 0.1
早産率(症例数と割合) 40 (5.4) 45 (5.6)
低出生体重児(症例数と割合) 66 (8.9) 72 (8.9)
SGA(症例数と割合) 31 (4.2) 34 (4.2)
LGA(症例数と割合) 126 (16.9) 116 (14.4)
胎児奇形率(症例数と割合) 31 (4.2) 36 (4.5)

文責:川井清考(院長)

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