大気汚染により男性生殖機能が低下する?

Environmental exposure to industrial air pollution is associated with decreased male fertility

Ramsay JM, et al. Fertil Steril. 2023 Sep;120(3 Pt 2):637-647. PMID: 37196750.

≪研究の紹介≫

工場から大気汚染物質による環境暴露は男性の生殖機能の低下と関連

男性不妊の原因は調べてもはっきりしない事が多いのが実情です。一方我々は生活環境からさまざまな化学物質に暴露されています。この中に内分泌攪乱物質があります。内分泌攪乱物質は、ホルモンのような作用を引き起こし、健康上の問題となり、生殖機能を障害することにもつながります。これまで、内分泌攪乱物質の血中濃度が高いと不妊のリスクが上昇すること、これは女性よりも男性の方に大きく影響することが示されています。しかしながら、まだ結論は出ていません。大気汚染も精液所見低下との関連が指摘されていますが、やはり結論は出ていません。これは時と場所によって大気汚染の構成要素が異なっていることや、大気汚染は色々な発生源からの多様な物質に起因し、複雑に関与していることを考慮していなかったためです。

この研究では、産業からの大気汚染での内分泌攪乱物質を測定し、対象症例の居住地域を考慮して、同一期間での暴露と精液所見との関連性を検討しています。

≪研究の要旨≫

この研究は、後ろ向きのコホート研究で、対象者は、 2005~2017年にユタ州の二つの大きな医療機関で精液検査を受けた男性21,563名です。

ユタ州のデータベース(Utah Population Database)から各症例の居住地域と居住期間を同定しました。内分泌攪乱作用のある9種類の化学物質を大気中に排出している企業の工場もデータベースで同定しました。化学物質のレベルは、各精液検査前の5年間の居住地域とリンクして解析されました。

結果:
結果は次のようになっていました。人口統計学的共変量で調整した結果、いくつかの化学物質が無精子症の発生、精子運動率および精液量の低下と関連していました。第1四分位群(暴露量別に4つのグループに分けて最も曝露が少ない集団)と比較すると第4四分位群(暴露量別に4つのグループに分けたうちの、最も曝露が多い集団)の暴露で有意なものは、アクリロニトリル(精子運動率の差異=-0.87%ポイント)、芳香族炭化水素(トルエンやスチレンの無精子症のオッズ比[OR]=1.53;精液量の差異=-0.14mL)、ダイオキシン類(無精子症のOR=1.31;精液量の差異=-0.09mL;精子運動率の差異=-2.65%ポイント)、重金属(バリウムやカドミウム、鉛、水銀。精子運動率の差異=-2.78%ポイント)、有機溶剤(無精子症のOR=1.75;精液量の差異=-0.10mL)、有機塩素類(無精子症のOR=2.09;精液量の差異=-0. 12 mL)、フタル酸エステル類(無精子症のOR = 1.44; 精液量の差異 = -0.09 mL; 精子運動率の差異 = -1.21%ポイント)、銀粒子(無精子症のOR= 1.64; 精液量の差異 = -0.11 mL)でした。すべての精液パラメータは、社会経済的な状況が悪化するとともに有意に悪化していました。環境の最も悪い地域に住む男性は、精子濃度、精液量、精子運動率がそれぞれ6.70 x100万/mL、0.13 mL、1.79%低くなっていました。また、精子数、運動精子数、総運動精子数はすべて30-34 x100万減少していました。

結論:
結論としては以下のようになります。工場由来の内分泌攪乱物質による大気への慢性的な環境暴露は低レベルであっても精液パラメータを悪化させていました。最も強い関連が認められたのは、無精子症のオッズの上昇と精子運動率および精液量の減少でした。研究対象となった化学物質が男性の生殖機能にもたらすリスクについてさらなる研究が必要です。

≪筆者の意見≫

大気汚染によって無精子症のリスクが上昇するということはインパクトがある結果でした。この様な住民のデータにアクセスできることも特筆すべきことですし、工場からの汚染物質のデータも持っていることにもすばらしいです。精液検査を行った男性は、不妊症というわけではないのですが、無精子症が3%程度を占めていましたので、一般人口よりは多い印象です。当クリニックがある千葉市も大気汚染についての測定結果を公表しています。ダイオキシンは、2021年度で学校や公園など6箇所で測定していてその平均が、0.030pg-TEQ/m3であり環境基準の0.6pg-TEQ/m3以下を満たしていました。この論文では、対象者の85%がダイオキシンに暴露されており、その濃度の平均値はわが国のデータに比べて大分高い結果でした。最も無精子症のリスクの高い化学物質は、有機塩素化合物で、これらには殺虫剤や農薬が含まれます。詳細な化合物の種類まではわかりませでしたが、やはり日頃から体に悪そうなものは避けるべきだと再認識しました。ユタ州というと自然豊かな環境という印象がありますが、この論文のように汚染物質の発生源から50km以内に居住するのは可能なら避けた方が良さそうです。

文責:小宮顕(泌尿器科部長)

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