減量時には栄養素補充を意識しましょう(論文紹介)
過体重・肥満女性には、妊娠前の減量が推奨されているにも関わらず、妊娠前の減量後に初期流産率が高くなる傾向があります(約7%減量; 33.3 % vs. 減量なし; 23.7%)、6件の研究のシステマティックレビューおよびメタアナリシスでは、妊娠前の身体運動と任意の低カロリー食による減量ライフスタイル介入は流産率の増加が報告されています。(RR: 1.50, CI: 95% 1.04 ~ 2.16; n=543)。 これらの一番の原因は必要栄養素の不足だと考えられています。減量時には栄養士に相談しながら必須栄養素を摂取しながら挑むことが必要と考えられています。妊娠前の食事の質が高いと、妊娠中の高血圧、妊娠糖尿病、早産のリスクが減少することも推奨されていますので、下記の点を注意していただくことをお勧めしています。
文献の紹介でしたので、主要栄養素に関しては自分なりの解釈を入れずにまとめています。個人的には魚介類を中心としたバランスがよい食事を心がけることが最優先と考えています。そうは言っても、食事には偏りがどうしても生じがちですので、最低限、妊活用マルチビタミンサプリメントを摂取することを提案しています。ヨウ素は日本食を食べている上では意識する必要はないと感じています。
a L Hart, et al. Fertil Steril. 2022 Aug 29;S0015-0282(22)00485-X. doi: 10.1016/j.fertnstert.2022.07.027.
主要栄養素
摂取量が少ないために公衆衛生上の懸念がある栄養素は、カルシウム、 ビタミンD、カリウム、鉄などになります。妊娠前から授乳期にかけては、葉酸、 ヨウ素、コリン、魚介類(特に長鎖オメが3脂肪酸)が必要と考えられています。妊娠から1,000日間(妊娠前からが好ましいとされています。)に起こる正常な神経発達のプロセスに敏感な時期を持つ栄養素には、タンパク質、長鎖多価不飽和脂肪酸、亜鉛、 銅、ヨウ素、鉄、葉酸、コリンが含まれています。
・葉酸
妊娠初期(妊娠後21- 28日目)の正常な神経管形成と閉鎖には、十分な葉酸が必要です。母体の葉酸不足は、低出生体重児、早産、胎児発育遅延とも関連します。妊娠を計画している女性や妊娠中の女性には、葉酸サプ リメント(400-800mcg/日)が推奨されます。 米国では約31%の妊婦が推定平均必要量より少ないとされています。
・亜鉛
妊娠前の亜鉛の状態は、受精、妊娠前、胎児の発育に影響を及ぼします。また、亜鉛は葉酸の吸収を促し、葉酸欠乏症のリスクを減らします。亜鉛が不足していてもサプリメント摂取などを行うと、1〜2週間以内に回復するとされています。 米国では妊婦の11%が亜鉛不足と推定されています。
・鉄
妊娠中は、赤血球の生産量が増えるため、鉄の必要量が増加します。米国では妊婦の約10 %が鉄欠乏であり、妊娠後期には約25%に増加します。 妊娠中の鉄欠乏は、母体および乳児の死亡率、早産、低出生体重児のリスクが増加します。妊娠を計画している女性や妊娠中の女性には、鉄分補給(30mg/日)が推奨されています。ベジタリアン・過多月経の女性は注意をした方がいいとされています。貧血が指摘された場合、通常鉄レベルが正常に戻るのに3-5ヶ月かかるとされています。
・魚介類と長鎖オメガ3脂肪酸
106,237組の母子と25,960人の子供に関する44論文を対象とした2つのシステマティックレビューでは、妊娠中における魚介類摂取の有無が、子供の神経認知発達と関連するとしています。また、 妊娠中の魚介類摂取は、子供の言語やコミュニケーションの発達に良い影響を与える可能性があるともされています。 コクランレビュー(女性19,927人を対象とした70RCT)によると、妊娠中の長鎖オメガ3脂肪酸の摂取は37週未満の早産(11.9% vs 13.4%)、34週未満の早産(2.7% vs. 4.6%)が減少するとしました。そのほかにも、妊娠高血圧腎症リスクの低下、妊孕力の改善なども報告されています。サプリメントでの報告では、長鎖オメガ3脂肪酸は摂取をはじめてから赤血球中で安定するには1ヶ月ほどかかるようです。
・ビタミンB6
妊娠期間中、ビタミンB6は胎児の神経系の発達にとっても重要ですし、妊娠初期の悪阻症状も緩和します。米国では、女性の12%がビタミンB6を不足しているとされています。ビタミンB6が充足していると初期流産が減少するという報告もありますが、まだまだエビデンスレベルも低く、今後の検証が必要とされています。
・ヨウ素
妊娠中の十分なヨウ素摂取は、胎児の神経認知の発達に重要です。不十分である可能性が高いのは、乳製品を摂取せず、ナトリウム制限している女性、ベジタリアンの女性になります。
・コリン
妊娠中や授乳期には、母体の貯蔵量を補充し、脳や神経細胞の正常な成長・発達をサポートするために、コリンの必要量が増加します。妊婦の90%から95%は、推奨摂取量よりも不足しています。コリン摂取不足は神経管欠損症のリスク上昇と関連するという指摘する意見がある一方、過剰摂取は低血圧や肝毒性、心・血管イベントと関係があるという報告もあります。コリンについては、日本では必要摂取量は定義されていないようですが、米国では450mg/日、上限3000-3500mg/日と推奨摂取量が定められています。
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文責:川井清考(院長)
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