不妊治療中の短期的な体重増加は妊娠に影響する?(論文紹介)
外来では、肥満を伴う多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)患者様に遭遇しますが、妊娠しないストレスもあり、体重が増えてしまう方もいます。中長期的に女性の体重増加を認めると、妊娠率の低下に繋がることはわかっていますが、治療中の短期的な体重増加は妊娠率に影響を与えるのでしょうか。このような部分に着目した論文です。
Wendy Vitekら. Fertil Steril. 2020 DOI: 10.1016/j.fertnstert.2020.06.002
≪論文紹介≫
排卵誘発を実施している原因不明不妊と、肥満を伴うPCOSの女性における短期的な体重変化が、出産と関連しているかどうかを多施設不妊治療施設の無作為化試験の二次解析として、原因不明不妊女性900人と肥満を伴うPCOS女性750人の出生率と調査しました。
原因不明不妊の女性にはクロミフェン、レトロゾールまたはゴナドトロピンの投与を開始し、人工授精を実施する際、PCOSの女性にはクロミフェンまたはレトロゾールの投与を開始しタイミング療法を実施する際の4~5周期の体重測定を実施しました。
結果:
原因不明不妊の女性856人(平均女性年齢 32歳、平均BMI 25.0kg/m2 、平均AMH 2.2ng/ml)と肥満を伴うPCOSの女性697人(平均女性年齢 29歳、平均BMI 35.0kg/m2 、平均AMH 6.2ng/ml)の体重データを比較したところ、平均体重変化量は原因不明不妊の女性で-0.2±0.3kg、PCOSの女性で+2.2±0.2kgであり、2郡に差はありませんでした。体重が3 kg増加した PCOS 女性は 115 例(16.4%)でした。PCOSの女性における体重増加は、3周期以上の治療を要した状況と関連していました。PCOSを有する女性で3 kg以上の体重増加があった女性と体重増加しなかったPCOSを有する女性では、出生率に差はありませんでした。
結論:
PCOSの女性では、投薬にかかわらず平均2.2kgの体重増加が見られましたが、原因不明不妊の女性では排卵誘発時に短期的な体重変化は見られませんでした。PCOSを持つ女性の体重増加は出生時とは関連していませんでした。
≪私見≫
この論文は、治療中に体重増加があったとしても妊娠率は急激には低下しないことを示した論文です。なぜ急激に低下しないと表現したかは、この論文は単変量解析では全てp<0.01としっかり有意差をもって妊娠率の低下を認めたのですが、女性年齢、人種、卵巣刺激法、不妊原因、不妊期間、テストステロンレベルなどで補正した多変量解析で調整オッズ比 0.54(95%信頼区間 0.26-1.13)と有意差がなくなったからです。今回の研究では肥満患者の短期的な3kg以上の体重増加は妊娠率に影響に影響しませんでしたが、研究デザインが異なると差が出る可能性も否定できないのかなとも思っています。
過去の論文では、長期的な体重増加は妊娠までの期間の延長、流産率の増加を示唆する報告が複数でておりますので参考になさってください。
- 思春期から成人期にかけて体重が5kg以上増加した女性は、体重変化がない女性と比較して、出産数が減少し、妊娠までの時間が長くなる(Gaskins AJら.,Obstet Gynecol 2015)。
- 成人期の体重が5kg増加するごとに流産率が3%上昇する(Gaskins AJら.Obstet Gynecol 2014)。
- 妊娠前12~18ヶ月間に体重増加した女性は、流産率が3%上昇する(Radin RGら.BJOG 2018)。
文責:川井(院長)
お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのブログです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。