肥満女性のダイエットは妊娠率を増加させる?(論文紹介)
肥満女性には妊娠前に体重を減らすことを勧めています。肥満が不妊に関わるメカニズムは複数で、無排卵、卵子の質の低下、卵胞の異常発生、および子宮内膜受容能の変化をもたらす可能性があります。レプチンやアディポカインなどの脂肪由来因子は、インスリン抵抗性、炎症性分泌、および卵子の分化成熟の経路と相互作用します。
妊娠前の非外科的な大幅な体重減少に関する研究はほとんどありません。超低エネルギーダイエット(VLED)プログラムは、大幅な体重減少をもたらすことが知られています。急激な大幅な体重減少が妊娠までの期間に与える影響を検証した論文をご紹介いたします。
Sarah A Priceら. Fertil Steril. 2020 DOI: 10.1016/j.fertnstert.2020.06.033
≪論文紹介≫
肥満女性における妊娠前の超低エネルギー食(VLED)プログラムが妊娠までの時間に与える影響を検討することを目的に複数施設でのランダム化比較試験として行われています。
妊娠を計画している18~38歳で、肥満(BMI 30~55kg/m2)で正常血糖値の女性164人が、ソーシャルメディアを通じてランダム化比較試験のために募集されました。女性は12週間の標準的な食事介入(SDI)または超低エネルギー食(VLED)プログラムに割り付けられました。介入を完了した女性は最大48週まで観察され、妊娠までの期間が記録されました。12週間の介入が完了した時点から妊娠した日までの妊娠までの期間を記録しました。
結果:
12週間の介入終了時の女性の体重減少は、SDI群で3.1%、VLED群で11.9%となりました。12週間の介入を完了した女性では、SDI群よりもVLED群に割り付けられた女性の方が妊娠までの期間が有意に短くなりました(ただし、体外受精での妊娠率に差はありませんでした)。ポストホック分析では、この妊娠までの期間の差は、12週間の介入後90日以内に特に顕著であることが示されました。
プログラムは以下のとおりです。
体重減少期(1~12週目)では、標準的な食事介入(SDI) 群の女性は、エネルギーを減らした食事を摂るように指導しました。管理栄養士は、基礎代謝率と身体活動レベルに基づいて、現在のカロリー摂取量を計算し、現在の摂取カロリーよりも500キロカロリー減らし、オーストラリアの健康的な食生活ガイドに沿ったマクロニュートリエント(脂質・炭水化物・蛋白質)構成の食事を摂取するようにアドバイスしました。
超低エネルギー食(VLED)群の女性には、VLED製剤(オプティファストVLCDネスレ®)を1日2食、3食目は低でんぷん野菜2カップ、赤身肉150g、油小さじ2杯で構成される食事を摂るように指示されました。両群の参加者には、万歩計(Yamax 700S、ヤマサ時計株式会社)を装着してもらい、1日10,000歩以上の歩数を目指しました。
13~16週目は体重維持に努め、16週目の終わりまで避妊を継続するように求められ、その後、避妊解除が許可されました。
≪私見≫
急激なダイエットは、リバウンドや体調を崩される患者様も拝見しますので無理強いはしておりませんが、定期的な体重測定などは当院でもご協力させていただいています。
しかし、今回の論文のように肥満女性における体重減少が妊娠までの時間を短縮することは間違いなさそうです。BMI>30kg/m2の女性では5%の体重減少が無排卵を改善すると言われていますし、今回の研究以外でもGesink Lawらは、肥満であると妊娠までの期間に約2ヶ月間(中央値が3ヶ月から5ヶ月)延長していることを報告しています。
確かにダイエットには月単位の期間がかかりますが、妊娠できるのも月に一度しかチャンスがないことを考えると、真剣に妊活の一つとしてダイエットを位置付けるのも方法かもしれません。
文責:川井(院長)
お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのブログです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。