AMHはPCOSの診断に役立つの?(論文紹介)

当院では中長期的な不妊治療の方針を決めるために、受診後3ヶ月以内にAMHを測定することが一般的です。排卵障害がある患者様はAMH値が高いという印象を持ちますが、中にはAMHが高くても排卵障害がない患者様もいらっしゃいます。今回ご紹介する論文はBMIとAMHを組みわせると排卵障害を予知できるのではないかということを調査した取り組みです。

Stylianos Vagios ら. Fertil Steril. 2020. DOI: 10.1016/j.fertnstert.2020.07.023

≪論文紹介≫

不妊女性における多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)と、その他の排卵障害(OVDYS)の診断に、AMH値とBMIを組み合わせた予測モデルが有用であるかどうかを検討することを目的に2011-2019年にMGH病院で実施された2322名7353周期の人工授精よりFSH 10U/L以上、AMH 1.0ng/ml未満の卵巣予備能低下群を除いた1010名3160周期の人工授精で実施した後方視的研究です。
PCOS患者228名、その他の排卵障害患者93名(原因不明 53.8%、視床下部性 31.2%、高PRL血症 10.8%、複数原因 4.2%)、それ以外の不妊原因患者689名の3群にわけて検証しており、AMH値単独、もしくは血清AMHと患者BMIを組み合わせた患者予測モデルに基づくPCOSまたはOVDYSの診断の確率を調査しました。
結果:
血清AMH値(ng/mL)の中央値と四分位間距離(IQR)は、PCOS女性で最も高く、排卵障害をもたない他の不妊原因を持つ女性が最も低くなりました。全体として、AMHが1ng/mL増加するごとに、PCOSとその他の排卵障害のオッズは、排卵障害をもたない他の不妊原因を持つ女性と比較してそれぞれ55%と24%増加しました。多変量ロジスティック回帰モデルを用いて推定した結果、BMIが高い女性では、正常体重または低体重の患者のPCOSを予測するAMH値と比較して、より低いAMH値でPCOSの診断を予測できることが示されました。ROC曲線では、PCOS診断の最良のカットオフ値はBMI群18.5-24.9、25.0-29.9、>30.0 kg/m2の女性でそれぞれ7.5、4.4、4.1 ng/mLとなりました。
結論:
AMHとBMIを考慮に入れて、排卵障害と診断される確率を予測するモデルが確立され、不妊治療の患者説明に有効な手段となることを示しました。

≪私見≫

PCOS患者では、血清AMH値が高い傾向があり、数多い前胞状卵胞と小胞状卵胞の顆粒膜細胞によるAMHの過剰生産が原因と考えられています。
AMHは機能的に卵胞形成に重要な役割を担っています。卵胞刺激ホルモン(FSH)は、卵胞発育効果を打ち消すことによって、発育卵胞予備群からの卵胞の過剰発育を抑制し、単一卵胞発育をサポートします。しかし、AMHの過剰生産では、この抑制効果が仇となり無排卵につながる可能性があります。

AMHとBMIの関係は相関があるという意見、ないという意見は共に存在しますが、今回は、この二項目を組み合わせることで排卵障害の予知因子として確立したことが、とても大きな意義だと考えています。この目的のための有望な代替手段となり得ます。

文責:川井(院長)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのブログです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。

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