現在のタイムラプスイメージング評価基準は正常核型胚の流産を予見できる?(論文紹介)

当院でも全例タイムラプスでの観察を行なっておりますが、分割時間に対して肯定的な論文が少ないので実臨床評価基準には取り入れておりません。
タイムラプスイメージングを使用して、着床前診断で正常核型胚を判断し妊娠し分娩に至った胚と流産した胚の違いを胚の分割時間などで判別できないか取り組んだ論文をご紹介させていただきます。

Dana B McQueenら. Fertil Steril. 2020 DOI: 10.1016/j.fertnstert.2020.08.021

≪論文紹介≫

2015年10月~2018年1月の間に単一施設にて、着床前診断を実施し正常核型胚と判断し単一胚移植された胚を対象とし、胚のmorphokineticsは、①タイムラプスイメージングを用いて、前核が消失するまでの時間(tPNf)、②2細胞までの時間(t2)、③3細胞までの時間(t3)、④4細胞までの時間(t4)、⑤8細胞までの時間(t8)、⑥桑実胚までの時間(tM)、⑦胚盤胞までの時間(tB)を測定し分娩と流産との差を後方視的に検証しました。
結果:
このうち、妊娠率(3w6d:βhCG 5mIU/mL以上)は78%(193症例中150症例)、出生率は63%(193症例中121症例)でした。分娩に至らなかった症例の内訳は、妊娠に至らなかった移植が43症例、生化学的妊娠が15症例、流産が13症例、胎児異常での堕胎が1症例でした。年齢、BMI、回収卵子数にはグループ間で統計学的に有意な差はありませんでした。調整前、調整後モデルとも分娩群と非分娩群で差がありませんでした。
結論:
流産を起こした胚は、タイムラプス画像上で異常な形態動態の証拠を認めることができませんでした。流産は、胚と子宮内膜の両方の因子を含む多因子性の可能性が高くたかく、さらなる研究が必要と考えられます。

≪私見≫

今まではタイムラプスを用いて正常胚を見分けることができるかという議論がでてきていましたが、これは着床前診断が胚への侵襲が大きいと考えていたからです。
Del Carmen No-galesらは、着床前検査を実施した485個の胚のコホートについて報告していて、トリソミー異常を持つ胚は、正常胚と同様の形態運動発達を示したのに対し、複雑な染色体異常(2つ以上)を持つ胚は、分裂時間が早かったのです。
また、異数体胚は双性体胚に比べて胚盤胞期までの発達が遅いという報告もあります。ただ、最近は非侵襲の着床前診断の開発が進んでいることより、着床前診断の正常核型胚ありきで、どのようにタイムラプスを活用するかという議論に移り変わって来ています。
正常核型胚をどう分娩まで100%に近づけるかがポイントになってきます。
タイムラプスイメージングが役立つかどうかを示した論文でしたが、今の評価基準では厳しそうです。AIなどを用いた評価開発も進んでいますのでその結果を待ちたいと思います。

文責:川井(院長)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのブログです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。

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