肥満は女性だけの問題じゃなく夫婦で向き合おう
英国国立医療技術評価機構(NICE:National Institute for Health and Clinical Excellence)のfertility problem(生殖医療における問題)に肥満がとりあげられています。
- BMI 30以上の女性には妊娠までの期間が長くかかることを知らせるべきである。
- BMI 30以上の女性で排卵障害があればダイエットすることで妊娠の可能性を高めることが期待できる。
- 肥満女性は、運動と食事のアドバイスを含むグループプログラムに参加することで、減量のアドバイスだけよりも多くの妊娠につながる。
- BMI19未満の女性で排卵障害・無月経があれば体重を増やすことで妊娠の可能性を高めることが期待できるとされている。
ASRMの肥満と生殖機能も以前のブログで取り上げていますのでご確認ください。
肥満と不妊(ASRM 専門家委員会2021年)
妊娠を希望する肥満女性の生活習慣の管理(ASRM 専門家委員会2021年)
実は男性側のこともNICEの中に一つBMIとの関係が記載されています。
- BMI30以上の男性は生殖機能が低下する可能性がある。
これはどのようなことなのでしょうか。引用文献は下記の通りです。
・ASRM 2003.Hilton I. Kort et al. DOI:https://doi.org/10.1016/S0015-0282(03)01566-8
・Hilton I Kort, et al.J Androl. 2006. DOI: 10.2164/jandrol.05124
精液520検体が分析されました。
BMI平均値(+SEM)は27.5(±0.49)でした。
線形回帰解析によりBMIと総運動精子数の間に負の相関があることが明らかとなりました(P=0.021)。
BMI群ごとの総運動精子数は、正常群(BMI 20~24):1800万個、過体重(BMI 25-30):3600万個、肥満(BMI >30):700万個でした。BMI >25以上の男性は総運動精子数が減少し、BMI>30となると更に悪化しました。
DFI平均(±SEM)は、24.7(±2.57)でした。
線形回帰解析によりBMIとDFIの間に正の相関があることが明らかとなりました(P < 0.05)。BMI群ごとの総運動精子数は、正常群(BMI 20~24):19.9%(±1.96%)、過体重(BMI 25-30):25.8%(±2.23%)、肥満(BMI >30):27.0%(±3.16%)でした。
BMI群ごとのDFIは、正常:19.9%(±1.96%)、過体重:25.8%(±2.23%)、肥満:27.0%(±3.16%)でした。
DFIは正常群に比べて過体重や肥満は高い傾向にありましたが、過体重と肥満の間に差は認めませんでした。
肥満男性全員が不妊症というわけではありませんが、精液の質の低下、勃起障害、睡眠時無呼吸症候群や陰嚢の温度上昇などの生殖機能に影響を与える問題が発生します。
精子の機能をどう変化させるか、精子DNA損傷を増加させるか、精子のミトコンドリア活性を低下させるか、精液の酸化ストレスを誘発するか、胚盤胞発生を低下させるか、妊娠率を低下させるか、流産が増加させるかなど様々な議論があります。肥満と男性不妊の関係が矛盾する結果になるのは、肥満以上に喫煙やアルコールなどの生活習慣が影響していたり、研究の質にばらつきがあることが指摘されています。
肥満男性におけるインスリンによるSHBGの抑制は、adipose aromataseによるエストロゲン産生のためのアンドロゲン利用を増加させ、ゴナドトロピン分泌の減少させる可能性があります。それ以外にもLHパルス振幅の減少、総テストステロンレベルおよび生物活性をもつテストステロンレベルの減少、インヒビンBの減少なども引き起こします。その結果、男性の肥満はライディッヒ細胞のテストステロン分泌の減少を伴い、テストステロンレベルは空腹時インスリンおよびレプチンレベルと負の相関を示します。
最近の研究では、肥満が精子に分子的変化を引き起こし、それが世代を超えてエピジェネティックに継承されることが明らかにされています。これらの変化は、RNAレベルの変化、DNAメチル化、プロタミネーション、ヒストンアセチル化によって媒介される可能性があります。これらの変化は、最終的に子孫に悪影響を及ぼす可能性があります。
・Obesity and reproduction: a committee opinion
Fertil Steril. 2021. DOI: 10.1016/j.fertnstert.2021.08.018
・Pedro F Oliveira, et al. Reproduction. 2017. DOI: 10.1530/REP-17-0018
ですので、不妊と向き合う夫婦は一緒になって生活習慣の改善に努めるべきだと考えています。
ブログもご参照ください:夫婦の体重(BMI)は妊娠しやすさ(不妊)に影響する?(論文紹介)
文責:川井清考(院長)
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