女性肥満で受精卵の質は変わらない(論文紹介)
女性の肥満は妊娠・出産にネガティブに働くことを触れてきていますが、受精卵の質は低下するのでしょうか。体外受精を受ける正常体重の女性と肥満の女性では、胚の分割パターンや胚盤胞の形成率は異なるかを検討した報告をご紹介いたします。
≪論文紹介≫
José Bellver,et al. Hum Reprod. 2021. DOI: 10.1093/humrep/deab212
2016年1月から2020年5月まで2822人3316周期の顕微授精を対象としたレトロスペクティブなコホート研究で、1,251周期は着床前検査で検討されtotal17,848個の胚を分析しました。
低体重:BMI<18.5kg/m2、普通体重: BMI18.5~24.9kg/m2、過体重: BMI 25~29.9kg/m2、肥満: BMI >30kg/m2としました。
結果:
肥満女性では、初期の胚発生が遅かったにもかかわらず、day5およびday5+6の胚盤胞到達率は、他の3つのBMIグループと比べて差がありませんでした。胚盤胞のICMとtrophectodermはグループ間で類似しており、胚盤胞形成までの発育・停止パターンや、胚盤胞の拡張・ハッチングのタイミングも同様でした。
結論:
胚盤胞形成や胚のmorpho kineticは、女性の肥満によって影響を受けることはなく、肥満女性で体外受精の結果が悪いのは、おそらく子宮内膜の受容性が低いためと考えられます。
≪私見≫
この報告でも書いていますが、女性肥満の卵質の低下はあまり気になりません。
女性肥満は、卵巣刺激に対する卵巣反応が低下しますが、ゴナドトロピンの投与量を増やすことで改善または補うことができるし、それにより卵質の低下はないとされています。
正常核型胚を移植しても流産率が高いという報告もあり、肥満女性は代謝を調節する遺伝子発現が変化していることが考えられます。そのほか、ホルモン補充周期における子宮内膜受容能検査によってpre-receptiveの割合が増えることがわかっています。
肥満女性の着床率が落ちるという報告は、ほとんどが新鮮胚移植を検討したものなので、凍結融解胚移植で黄体補充をしっかり補充しても成績がおちるのか今後の検討が課題となっています。
文責:川井清考(院長)
お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのブログです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。