HRT周期のプロゲステロンによる子宮内膜厚変化は妊娠には影響しない(論文紹介)

子宮内膜の厚さと生殖医療成績との関係についてはコンセンサスが得られていません。
排卵前の子宮内膜厚が7-8mm未満の場合、臨床妊娠率が低く流産率が高いため、治療キャンセルを促すことを推奨する人もいます(Yuan X, et al. Reprod Biomed Online. 2016: Kasius A, et al. Hum Reprod Update. 2014: Liu K.E, et al. Hum Reprod. 2018)。子宮内膜の厚さが9~14mmの範囲であれば、着床率と臨床妊娠率が最も良好になるとされています(El-Toukhy T, et al.Fertil Steril. 2008)。
子宮内膜の厚さは臨床成績とは関係なく、妊娠成績を予測できないことを確認した研究もあります(Zhang T, et al. Medicine (Baltimore). 2018: Kovacs P, et al. Hum Reprod. 2003: Barker M.A, et al. J Assist Reprod Genet. 2009: Laasch C, et al. J Assist Reprod Genet. 2004: Griesinger G, et al. Hum Reprod Open. 2018)。
本当に様々です。
今回はHRT周期のプロゲステロンによる子宮内膜厚変化は妊娠には影響しないことを検証した論文をご紹介いたします。

≪論文紹介≫

ホルモン補充周期にて正常核型胚の単一胚盤胞移植を行った症例を対象に、胚盤胞移植日とプロゲステロン投与日の子宮内膜の厚さを経膣超音波で測定し、両者の差と変化率を算出しました。評価項目として、臨床妊娠率および生児出生率としました。
今回の症例ではホルモン補充周期で子宮内膜が7mm以上になった段階で、P+0にプロゲステロン60mg 筋注+ジドロゲステロン10mg(P+2にジドロゲステロン20mgに変更)とし、胚盤胞移植はP+5に行っています。移植日以降は腟内プロゲステロンゲル90mg+ジドロゲステロン20mgを投与しています。
結果:
ホルモン補充周期下単一胚盤胞移植508症例の胚盤胞移植日とプロゲステロン投与日の子宮内膜の厚さの変化では妊娠成績に差がありませんでした。
多重ロジスティック回帰では子宮内膜厚変化率(10%あたり)の増加に伴い、臨床妊娠率および生児出生率は有意に増加しませんでした。その他、様々な解析を実施しましたが内膜厚の変化は臨床妊娠率および生児出生率に影響はありませんでした。

≪私見≫

プロゲステロン投与後の子宮内膜は組織学的には変化が起こっているのは間違いありませんが、厚みで評価できるかどうかです。
今回の報告結果はプロゲステロン投与後の子宮内膜厚変化が妊娠予後に影響を及ぼさないという結論でしたが議論が分かれています。
私個人としては、そこまで大きな因子ではないと現段階で考えています。

①内膜厚が薄くなった方がよい派

Haas J,et al. Fertil Steril. 2019
Zilberberg E, et al. Fertil Steril. 2020
Haasらは、プロゲステロン投与後の子宮内膜コンパクション(子宮内膜の厚さが10%以上減少したと定義)が、継続的な妊娠率の向上につながると考えています。
同グループのZilberbergらは正常核型胚を移植し内膜が詰まった方が成績がよいとしています。ただ、内膜評価が移植日のみ経腹超音波なので同じ状況では測定できていません。

②内膜厚が厚くなった方がよい派

Bu Z, et al. Reprod Biol Endocrinol. 2019
Buらは、子宮内膜調整プロトコルに関わらず黄体補充後、内膜が厚くなった方の妊娠率が高いとしています。彼らはPGTの実施していない胚盤胞移植での成績です。

③内膜厚の変化は無関係派

Ye J, et al. Front Endocrinol (Lausanne). 2020
Riestenberg C, et al. J Assist Reprod Genet. 2021
Yeらはプロゲステロン投与後の子宮内膜の厚さの変化は凍結融解胚移植の臨床妊娠率と生児獲得率に影響を及ぼさないとしていますし、Riestenbergらも単一正常核型胚盤胞移植にて子宮内膜厚の変化は生児出生率や自然流産率とは関係ないとしています。

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文責:川井清考(院長)

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