反復着床不全の女性側を疑うのは何個移植した段階?(論文紹介)
体外受精周期が1回でも上手くいかないと、今後どうなるか分からない不確実性から、フラストレーションがたまりストレスがどんどん溜まっていきます。それだけではなく、お金がいくらかかるんだろうという経済的負担も懸念材料になります。
「反復着床不全」と診断が付けられると、より不安感が増大します。反復着床不全と診断されると、治療不可能な不妊なんだと思い込み不妊治療を中断してしまう可能性や、ドクターショッピングに走ってしまう可能性もあります。反対に科学的根拠がないネットの情報に惑わされてしまったり、サプリメントや統合医療などにどんどんのめり込んでいく危険性もあります。
着床不全の主な原因は「受精卵の異数性」です。どれくらいで着床不全の検査を行うのか、妊娠までどれくらい腰を据えて取り組むのかの参考となる論文をご紹介いたします。
≪論文紹介≫
Baris Ata, et al. Fertil Steril. 2021. DOI: 10.1016/j.fertnstert.2021.06.045
女性年齢別に過去に報告されている胚盤胞の異数性率に基づいて累積着床率を数理モデル化することを目的としました。着床に影響を及ぼす受精卵の質以外の要因がないと仮定した場合に、累積着床確率95%を達成するために必要な胚盤胞数を検討しました。
35歳未満:65%、35-37歳:55%、38-40歳:35%、41-42歳:25 %、 43歳以上:15%とすると、正常核型胚の胚移植にて着床する割合55%としたときに累積着床率が95%に達するのに、それぞれ35歳未満だとしても7個以上の胚を戻さないと達しません。しかし、着床前診断を実施し正常核型胚を移植すると3-4個移植するとどの年齢でも累積着床率が95%に達します。
Pirteaらはほとんどの女性が95%の累積着床率を達成するには、3個のeuploid胚の移植で十分であると示唆した結果と一致しています(反復着床不全のほとんどの原因は受精卵?)。
年齢に高い女性は、着床前検査を行い、2-3個胚移植を行っても着床しない場合、早期に他の着床不全要因を疑うことが必要です。
今回の数理モデルから累積着床率が80%に到達するまで何個の胚移植が必要かと下の表にまとめました。
正常胚の胚移植着床率45%、55%、65%と仮定した場合の3パターン用意しています。女性年齢に応じて反復着床不全の検査時期を変えるより挙児をえるためには一定回数で反復着床不全の女性側精査を行い始めることを考慮にいれることを改めて感じます。
着床率 45% | 着床率 55% | 着床率 65% | |
35歳未満 | 4-5個 | 3-4個 | 2-3個 |
35-37歳 | 5-6個 | 4-5個 | 3-4個 |
38-40歳 | 7-8個 | 6-7個 | 5-6個 |
41-42歳 | 12-13個 | 10-11個 | 8-9個 |
43歳以上 | 23-24個 | 20-21個 | 17-18個 |
正常胚の場合 | 2-3個 | 2-3個 | 1-2個 |
文責:川井清考(院長)
お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのブログです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。