反復着床不全のほとんどの原因は受精卵?(論文紹介)

胚移植をして着床しない患者の原因は、受精卵なの?子宮側なの?という議論は、患者様のみならず生殖医療にかかわる全ての医療従事者の興味の的です。受精卵の染色体異常を調べる着床前検査が臨床応用されるようになってから、正常核型胚を戻しても移植あたりの妊娠率が60-70%程度であったことから、子宮側の着床不全の原因は思った以上に多いのではないか?という考えが私の頭の中にありました。その中で、免疫検査、凝固検査、慢性子宮内膜炎検査、ERA検査、子宮内フローラ検査が台頭してきた経緯があります。今回の論文は、そこに疑問を投げかけた論文ですのでご紹介させていただきます。
「正常核型胚を3回移植したら、子宮精査をしないでどれくらい妊娠するの?」という内容です。症例数も多くてとても衝撃的な内容です。

Paul Pirteaら.Fertil Steril. 2020. DOI: 10.1016/j.fertnstert.2020.07.002

≪論文紹介≫

2012-2018年に単一施設で行なった後方視的な研究です。女性は18-45歳(BMI: 18 -40kg/m2)であり、子宮に形態的な異常がない女性(n=4,429:平均年齢 35.39歳、平均BMI 25.47kg/m2、平均AMH 3.01ng/ml、初回採卵時の平均回収卵 12.51個 平均生検率 5.45個 正常核型胚平均個数 3.54個 )を対象としています。刺激はHMG製剤150-450単位のHMGアンタゴニスト周期、トリガーはHCG10000単位もしくはGnRHa製剤、トリガー後36時間で採卵、PGT-A実施のために受精方法はICSI実施し、PGTを実施し、正常核型胚を凍結融解胚移植しました。胚移植はエストラジオール6mg/日を12-25日投与した後、プロゲステロン50mgを注射し6日目に移植しています。正常核型胚を3回移植するまでの累積妊娠率・出産率を、ロジスティック回帰モデルを用いて評価し、累積着床率の分析にはカプランマイヤー曲線を用いています。
結果:
1回目、2回目、3回目の胚移植の心拍確認できた臨床妊娠率は、それぞれ69.9%、59.8%、60.3%となり、3回の胚移植までの累積臨床妊娠率は95.2%となりました。
1回目、2回目、3回目の胚移植の出生率はそれぞれ64.8%、54.4%、54.1%となり、3回の胚移植までの累積出生率は92.6%でした。
1回目、2回目、3回目の妊娠確認後の流産率はそれぞれ7.2%、8.8%、12.7%となり、3回を通して有意差がありませんでした。
染色体異常のない胚盤胞が準備できる子宮に形態異常がない女性では3回の正常核型胚の胚移植後妊娠しない女性は5%未満となります。
4,429名のうち、妊娠せずにドロップアウトした患者は初回で571名、2回目で176名です。ドロップアウトした患者に正常核型胚を残していた患者はおらず、他の治療選択を行なった患者や金銭的・精神的なストレスのため続けられなかったのが主な理由となっています。

≪私見≫

反対意見が多々あると思う中、有名雑誌に投稿するところまでデータをしっかり示したことが、本当にすごい論文だと思います。この論文の面白いところは正常核型胚を移植し、初回の胚移植で70%妊娠、30%妊娠不成立のわけですが、30%の妊娠不成立の中に子宮側の着床不全が隠れている人はそこまで多くなく、2、3回と繰り返すと同じ割合ずつ妊娠成立していくんだよ、というのが論調です。これが本当であるなら、子宮側、着床不全の介入は、少々過剰となっている気もします。ただし、この検討は子宮に形態的な異常がないことが大前提ですし、子宮側の患者がいないと言っているわけでもないので、着床不全精査は適切なタイミングで実施すべきだと考えます。この論文で言えることは「正常核型胚ができるうちに体外受精をするのが出産への近道」ということかなと思っています。

文責:川井(院長)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのブログです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。

亀田IVFクリニック幕張