移植時の血中P値は妊娠率に影響しますか。(論文紹介:肯定意見)

胚移植日にP値を測る必要がないと言われていた時代が長くつづきましたが、最近では、やはり影響を与えるのではないかという意見が主流になってきました。
ほとんどの論文は後方視的な論文で前向き研究があまりありませんでしたが、今回はしっかりデザインされた前向き研究で胚移植日血中P値と妊娠の関連性を示しています。このグループは以前、211 人の卵子提供者を対象に、移植日の血清 P 値が 9.2 ng/ml 未満であると 臨床妊娠率 が有意に低下することを報告しています。

ホルモン補充凍結融解胚移植を予定していた不妊患者1205例のうち1150例が登録されています。このうち、658例(57.2%)は卵子提供サイクルであり、492例(42.8%)は自分の卵子を使用したサイクルで、着床前遺伝子検査(PGT-A)治療が308例、通常のF胚移植が184例でした。参加女性は50歳以下で、増殖期にエストロゲン治療を行い、胚移植前にウトロゲスタン(400mgを1日2回、5日間)のみで黄体補充を投与した後、適切な子宮内膜パターン(3層)と厚さ(6.5mm以上)を有していることを移植条件としています。胚盤胞は1~2個移植とし、主要評価項目は、妊娠 12 週目以降の 臨床妊娠率 としています。妊娠評価はβ-hCG検査が陽性(β-hCGの血清レベルが胚移植後11日目(4w2d)に10 IU/mlを超える)と定義し、臨床妊娠は超音波検査で少なくとも1つのGS確認、着床は移植された胚1個あたりのGS確認と定義しました。臨床妊娠率は12週目以降に少なくとも1つの生存可能な胎児が存在すると定義しています。
結果:
血清P値が8.8ng/ml(30%)未満の女性は、他の患者と比較して、妊娠12週目以降の妊娠予後(36.6% vs. 54.4%)と出生率(35.5% vs. 52.0%)が有意に低くなりました。多変量ロジスティック回帰の結果、血清P<8.8 ng/mlは、全集団および3つの治療群において、臨床妊娠率に影響を与える独立因子であることが示されました。血清P値とBMI、体重、最後のP投与から血液検査までの時間との間には有意な負の相関が観察され、年齢、身長、HRT投与日数との間には正の相関が認められました。多変量ロジスティック回帰では、血清 P 値 <8.8 ng/ml の独立因子は体重のみとなりました。。妊娠が継続している患者では、血清P値が8.8 ng/ml以上/ml未満であるかどうかにかかわらず、産科的転帰および周産期転帰に差はみられませんでした。分娩率(86.1% vs. 85.4%)、正常出生体重(83.6% vs. 91.3%)、妊娠に関連した低出生体重児数(83.6%v s. 91.3%)、妊娠関連高血圧(12.9% vs. 9%)、妊娠糖尿病(8.1% vs. 7.4%)、早産のリスク(4.8% vs. 4.9%)、および第1期(32.3% vs. 24.6%)または第2/3期(2.4% vs. 2.8%)の性器出血。注目すべきことに、血清P値<8.8 ng/mlは、卵子提供サイクルにおける妊娠関連高血圧のリスクが高い傾向にあったが、統計的有意差には達しませんでした。(15.7% vs . 8.2%、P = 0.07)。これは、自分の卵子を用いた治療では認められませんでした。(8.9% vs.  9.9%、P = 1.00)

≪私見≫

経膣天然型プロゲステロン製剤を使用すると、血中をまわるのではなく直接子宮内膜に作用する効果から、より低い血清P値で子宮内P値を高く保ち(Bullettiら、1997)、安定し(Duijkersら、2018)、結果として良い妊娠率が獲得できると考えられています。理由の一つとして、妊娠初期段階でのPの免疫調節的役割であり(Shahら、2018)、胚寛容性を有利にし、流産を防止すると考えられています。
以前は胚移植日の血中P値なんて意味がないといわれていた時代がありましたが、経膣天然型プロゲステロン製剤を使用するホルモン補充凍結融解胚移植における転帰を最適化するためには、血清Pレベルの最低閾値に達する必要があるという意見が多数あります。(Alsbjergら、2018;Cédrin-Durnerinら、2019;Gaggiotti-Marreら、2019)。大規模なレトロスペクティブ研究(Volovskyら.2020)は、血清P値<10 ng/mlの患者でも、>10 ng/mlの患者同様、妊娠転機が変わらないと報告していますが、この研究は、低いP値(<8ng/ml)患者には外因性P補充を行なっているので、低いP値で妊娠率が低下しないことをしめしたわけではなさそうです。

文責:川井(院長)

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