流産予防に経口プロゲステロン製剤は効くの?(論文紹介)
プロゲステロンは、妊娠の維持に重要な役割を果たしており、低いと流産の原因になると考えられており、胎盤からの産生が安定する10週まで外因性に補充することにより流産率が低下するのではと考えられてきました。
2018年に更新されたコクラン・レビュー(Wahabiら)の サブグループ分析では、経口プロゲステロン製剤による治療は流産率を低下させたが、膣プロゲステロンによる治療は流産率を低下させる効果がほとんどないことがわかりました。
経膣プロゲステロン製剤の使用は流産を減らすのに有効ではありませんが、切迫流産の患者様には流産の恐れがある場合、経口プロゲステロン製剤が本当に有効かを示す良い報告がありません。ダブルブラインド試験がでてきましたのでご紹介いたします。
Chan DMKら. Hum Reprod. 2020. DOI: 10.1093/humrep/deaa327.
≪論文紹介≫
無作為化ダブルブラインド対照試験です。2016年3月30日から2018年5月までの間に、初期流産の可能性がある406名の女性を対象としました。
患者には妊娠12週目まで、もしくは性器出血が止まって1週間後のどちらか遅い方までジドロゲステロン40mgを経口投与し、その後10mgを1日3回経口投与するか、プラセボを1日3回投与するかを割り付けました。主要評価項目は妊娠20週までの流産率でした。
結果:
ジドロゲステロン群、プラセボ群ともに年齢(31歳前後)、BMI、既往流産回数、診察時の妊娠週数および超音波所見に差はありませんでした。妊娠20週前の流産率は両群で同様であり、ジドロゲステロン群では12.8%(26/203)、プラセボ群では14.3%(29/203)であった(相対リスク0.897、95%CI 0.548-1.467;P=0.772)。出生率はプジドロゲステロン群 81.3%に対し、プラセボ群83.3%でした(P = 0.697)。産科的転帰や副作用については、両群間に有意な差は認められませんでした。
経口プロゲステロン製剤を使用すると、プラセボと比較して流産率が低下するか?については、流産の恐れのある女性に経口プロゲステロン製剤を投与しても、プラセボと比較して 20 週間前の流産は減少しませんでした。
≪私見≫
彼らも記載しておりますが、コクラン・レビューでは経口プロゲステロン製剤の有効性が報告されておりますし、最近の大規模な無作為化試験(Coomarasamyら、2019年)を含む最新のメタアナリシス(Liら、2020年)でも、 . 経口黄体ホルモンの使用は流産のリスクを減少させ、出生率を増加させたことが示されています。また、習慣流産既往の患者に対して、膣プロゲステロン製剤を使用した場合、15%の出生率の増加(72% vs. 57%;RR 1.28;95%CI 1.08-1.51;P =0.004)があったことが報告されています。(Coomarasamyら、2019年)
ジドロゲステロン(デュファストン)は当院でもよく使用する経口プロゲステロン製剤です。非常に良好な経口バイオアベイラビリティを持つレトロプロゲステロンであり、構造的にも薬理学的にも天然のプロゲステロンに非常によく似ています。また、母親のプロゲステロン形成を阻害しないので最初の3ヶ月間の使用は、全体的に安全であると考えられます。妊娠中の安全性については、プロゲステロン製剤が性器発達障害のリスクを増加させる可能性があるといういくつかの初期の提案(Goujard、Rumeau-Rouquette.1977; Nora ら.1978)にもかかわらず、その後の大規模なプロスペクティブ研究やメタアナリシスからの証拠は、そのような催奇形性の影響はほとんどないことを示しています(Katzら. 1985; Resseguieら1985; Raman-Wilmsら.1995)。 妊娠中のジドロゲステロン使用の最近のレビューでは先天性リスクの増加はみとめられていません。(Queisser-Luftら、2009)
これらの結果から切迫流産の患者には経膣プロゲステロン製剤の使用までは考えませんが、経口プロゲステロン製剤は流産を少し下げるか変わらないかどちらかで、副作用はほぼないので、患者様に委ねるというのが答えになるのでしょうか。流産の精神的ストレスに悩んでいる患者様と接する機会が多いので、今回の結果でも産科合併症を含む副次的転帰にも有意な差は認められなかったことからも考えると、少しでも流産を減らせる見込みがあるなら使用したいと私は思ってしまいます。
文責:川井(院長)
お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのブログです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。