高齢女性(43歳以上)の人工授精(IUI)の成績は?(論文紹介)

年齢が高い女性の「人工授精・タイミングで妊娠しました!」という記事をSNSやネット記事などでよくみますよね。芸能人の記事だったり、サプリメントやクリニックの宣伝だったり多岐にわたりますが現実はどうなんでしょうか。43歳以上の人工授精成績にフォーカスを当て書かれた論文をご紹介します。このようなネガティブデータもしっかり形にしていくことが必要だなと改めて感じました。

Jacob Ruiter-Ligetiら. J Assist Reprod Genet. 2020. DOI: 10.1007/s10815-020-01976-3

≪論文紹介≫

方法
43歳以上の人工授精(IUI、AIH)の妊娠転帰を調査するために2011年1月から2018年3月までの間に、単一生殖医療期間で43歳以上の女性を対象に、後方視的のコホート研究を行いました。主要項目は、人工授精の 1 周期あたりの妊娠数と出生数でした。フィッシャー厳密分析およびカイ二乗分析を実施しました。
結果
この施設で行った9,334周期の人工授精のなかで、325回の人工授精(3.5%)は、受精時年齢43歳以上の女性(43.6±0.8歳、範囲43~47歳)を対象としていました。これら325回の人工授精を分析したところ、生化学的妊娠は5回(1.5%)、生児出産は1回(0.3%)のみでした。ドナー精子を用いた人工授精(N=1/49、2.0%)とパートナー精子を用いた人工授精(N=4/276、1.4%)の間では、妊娠率に差はありませんでした。妊娠率は、ゴナドトロピン注射(N = 2/211、0.9%)、クロミフェンまたはレトロゾール(N = 2/78、2.6%)、自然周期(N = 1/36、2.8%)を用いた人工授精間で差はみられませんでした。
結論
43 歳以上の女性における子宮内人工授精の使用は効果のない治療であり、これは卵巣刺激やドナー精子の使用とは無関係でした。

≪私見≫

今回の論文は比較的、臨床現場に即した論文だと思います。症例数が少ないのが残念ですが、日本で行うような卵巣刺激ですし、そこまで多数の排卵はさせていません。
Evans MBら(Obstet Gynecol. 2020)は40歳以上の女性でも排卵数を1-5個まで増やすと人工授精も妊娠率も4.1%-13.5%とあがりますよと報告していますが、多胎のリスクを考えると治療手段として適当ではないと考えます。

現在までの高齢女性の人工授精の現場は下記のようです。
・Haebe Jら. Fertil Steril. 2002
43歳以上の女性24人については、出生率は1例のみ(40~42歳の女性89人の人工授精あたりの出生率は9.8%。)
・Schorsch Mら. Geburtshilfe Frauenheilkd. 2013
43歳以上の女性12人の人工授精あたりの妊娠率は8.3%、出産転帰は触れられず。

では亀田IVFクリニック幕張の43歳以上の女性の人工授精成績はどうなのでしょうか?
女性平均年齢 44.4±1.7歳 男性平均年齢 45.9±3.8歳 開設から2020年9月まで75症例中 生化学妊娠以上が4例(5.5%)、臨床妊娠は2例(2.7%)でした。共に流産となっています。もちろん症例が増えると分娩例がでてくると思いますが、この論文に近い数値かと思っています。

紹介した論文では生化学妊娠も臨床妊娠も人工授精1.2回目での結果でしたが、当院では生化学妊娠以上の4名に関しては1回目、4回目、6回目、7回目でした。

文責:川井(院長)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのブログです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。

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