卵巣予備能検査と解釈のアメリカ生殖医学会の見解(その1)

2020年最後の記事を何にしようかと考えてきましたが、やはり、患者さまの中で一喜一憂する検査の一つ、卵巣予備能の検査と解釈についてご紹介することにしました。この記事のあと、明日のその2に続きます。難しい内容だと思いますが皆さんが検査を行い、治療を進めて行くうえでの参考になれば幸いです。

Fertil Steril. 2020. DOI 10.1016/j.fertnstert.202:0.09.134.

①卵巣予備能とは?

卵巣予備能とは、卵巣に残っている卵子数と定義されています。卵巣予備能、すなわち卵子数は、卵子の質とは異なります。女性が乳児の頃には約50万から100万個の卵子をもって生まれますが、排卵と排卵しないけれど卵胞が萎縮することにより、時間の経過とともにゆっくりと卵子の数が減少し、その後閉経を迎えます。卵巣予備能は年齢とは逆の相関ですが、同じ年代の女性でも卵巣予備能にはかなりのばらつきがあります。

②卵巣予備能の測定法とは?

卵巣予備能検査には、生化学的検査と超音波検査の両方があります。卵巣予備能の生化学的検査は、FSH、E2、またはインヒビンBの初期卵胞期の測定、周期日に依存しないAMHの測定、およびクロミッドチャレンジテスト(CCCT)などの負荷検査に分けることができます。卵巣予備能の生化学的測定は、直接的または間接的に卵巣の中に残っている卵胞数を測定することと考えられています。
インヒビンBとAMHは、小さな卵胞によって産生される糖タンパク質ホルモンであり、卵胞プールの直接的な測定値となります。AMHは主に原始卵胞、前胞状卵胞、初期の胞状卵胞によって分泌されるのに対し、インヒビビンBは主に前胞状卵胞によって分泌されます。卵胞数が年齢とともに減少すると、AMHと初期卵胞期のインヒビンBの両方が低下します。インヒビンB分泌の減少は、卵巣と視床下部・下垂体のフィードバックシステムに影響を与え、下垂体FSH分泌が増加し、黄体後期および卵胞期のFSH濃度が高くします。その結果、FSHレベルの早期上昇は、卵胞を早く育て、排卵が早く起こりますから、月経期間と排卵までの期間の共に短くしてしまいます。

②-1:卵胞期の血清FSH値とE2値

卵巣予備能が低下している女性(DOR)では、卵胞期(月経2-4日目)に血中FSH濃度が上昇します。FSH値は周期間および周期内の変動が大きく、単一で卵巣予備脳を示唆するものとしては、信頼度が低くなります。
卵胞期(月経2-4日目)の血中E2だけでDORのスクリーニングを行うべきではありません。卵胞期(月経2-4日目)の血中E2はあくまで同時に測定する血清FSH値を正しく解釈するための補助としてのみの測定となります。どういうことかというと、卵巣機能がおちると、血清E2濃度は早期上昇し卵胞期(月経2-4日目)に血中FSH濃度を正常範囲まで低下させてしまい、FSHの解釈をまちがって評価してしまう原因になります。

②-2:クロミッドチャレンジテスト(CCCT)

このテストはクロミッド(1日100mg、月経5~9日目)による治療前(3日目)と治療後(10日目)の血清FSHの測定を測定して行う検査です。
卵胞数増加に由来するインヒビンBおよびE2レベルの上昇は、正常な卵巣予備能を有する女性のFSHを抑制する一方で、卵巣予備能が低下している女性では卵胞数が増えないため、インヒビンBおよびE2の生成量が少なくなり刺激されたFSH濃度が高くなることになります。これらの特徴をいかして、クロミフェン刺激後のFSH濃度の上昇はDORを示唆します。クロミッドチャレンジテストは卵胞期FSH値および卵胞期AFCと比較して、クロミフェン刺激後10日目のFSH値は、体外受精やタイミング・人工授精での妊娠を予測するにはすぐれていないため、卵巣予備能を測定するための検査としては進めるべきではありません。

②-3:AMH

初期卵胞の顆粒膜細胞によって産生されるAMH(アンチミューラリアンホルモン、抗ミュラー管ホルモン)濃度はゴナドトロピンに依存しないため、不妊女性でも若年の排卵がある女性でも、月経周期の時期を問わず、測定値が一定であるといわれています。ただし、ピルなどを使用している女性ではAMHが低く出る可能性があるため測定は避けたほうがよいと考えられています。AMHはFSHよりも感度の高い卵巣予備能の指標であり、FSHが上昇する前に低下する傾向があります。このため、AMHは卵巣予備能のバイオマーカーとして頻用されます。AMHレベルが非常に低い女性には卵胞期の血清FSH値とE2値を測定することにより患者様の状況をより深く理解できることとなります。

②-4:AFC(胞状卵胞数)と卵巣容積

卵巣予備能の超音波測定には、AFCと卵巣容積があります。卵巣容積は年齢とともに減少するため、卵巣予備能の潜在的な指標となりますが、月経周期間および周期内変動が大きく、感度が一般的に低いため、臨床的な予測にはあまり用いられていません。
AFCは、初期卵胞期に経膣超音波検査で観察される両卵巣の卵胞数の合計です。ほとんどの研究では、卵巣を横切る最大の2次元平面で平均直径が2~10mmのものを胞状卵胞と定義しています。AFCは月経周期間変動が低いとされていて信頼性が高い検査です。ただし、検査をする医師の熟練度や超音波性能にもよるので不妊施設として安定した成績を維持している施設での測定がよいとされています。

③卵巣予備能のマーカーの選択

AMHは、卵胞期血清FSH値とE2値と比較して、卵巣予備能のより感度の高いマーカーであるようです。AMHはFSHが上昇する前に低下する傾向があります。AFCとAMHは同等であることが複数の研究で示されています。安定した不妊施設では、AFCはAMHに代わる合理的な選択肢となります。

④卵巣予備能検査は、不妊症かどうかわからない一般女性の生殖能力を予測しますか?

卵巣予備能は年齢とともに低下し、妊娠力も低下します。このことから、卵巣予備能は生殖能力を予測すべきであると推測されていますが、これまでの研究では実証されていません。現在のところ、前向き研究では、卵巣予備能検査は、排卵可能性(特定の月経周期で妊娠する確率)、累積的な妊娠確率、または不妊症の発生率で測定される生殖能力の予測因子としては不十分という結論になっています。今のところ、不妊症かどうかわからない時点に女性ドック等で測定し、「妊娠しづらいですよ!」などと言われるのは時期尚早ですし、不安をあおるだけになってしまいがちなので、しっかり説明を受けられる施設での測定が好ましいでしょう。

文責:川井(院長)

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