男性の健康状態(プレコンセプショナル期)は流産と関係しますか?(論文紹介)
現在まで流産は女性の年齢をふくむ影響が強いと考えられてきました。ただ、最近、反復流産と精液所見の関連がアメリカ生殖医学会のガイドラインでも書き込まれるようになり、大きな症例数のコホート研究でも女性因子と独立した因子として男性側の胎児への影響が話題にあがる機会がふえてきました。
今まで男性不妊をしらべる項目がすくなく、女性がこんなにたくさん検査があるのに、男性は精液検査のみという流れが多くのクリニックでありましたが、こんごは大きく様相が変わってくるかと思います。
アメリカの保険金請求データベースを用いた男性の健康状態と妊娠喪失の関連をしらべた論文をご紹介いたします。
Alex M Kasmanら. Hum Reprod. 2020. DOI: 10.1093/humrep/deaa332
≪論文紹介≫
2009年から2016年までの958,804人の妊娠を対象とした米国の保険金請求データベースのレトロスペクティブ・コホート研究です。父親の妊娠前の健康状態(例:メタボリックシンドローム診断、チャールソン合併症指数(慢性疾患に合併に基づいて患者の短期的な死亡リスクを予測するため開発されたスコアリングシステム)、個々の慢性疾患診断)が妊娠喪失(例:子宮外妊娠、流産、死産)との関連を調べられました。
結果:958 804例の妊娠カップル中、平均男性年齢は35.3歳(SD 5.3)であり、母親年齢は33.1歳(SD 4.4)でした。妊娠の22%が妊娠喪失となりました。調整した後、妊娠喪失のリスクは、父親の併存疾患の増加とともに増加しました。例えば、メタボリックシンドローム診断の因子(腹部肥満/BMI、耐糖能異常、高血圧、脂質異常など)を持たない男性と比較して、妊娠喪失のリスクは、因子の数が増えるたびに1つ(相対リスク(RR)1.10、95%CI 1.09-1.12)、2つ(RR 1.15、95%CI 1.13-1.17)または3つ以上(RR 1.19、95%CI 1.14-1.24)増加しました。具体的には、健康でない男性ほど、自然流産、死産、子宮外妊娠に至る妊娠を生むリスクが高くなりました。同様のパターンは、父親の健康の他の尺度(例えば、チャールソン合併症指数、慢性疾患など)でも変わりませんでした。母体の健康状態と同様に母体の年齢で層別化すると、1、2、3以上のメタボリックシンドローム診断の因子をもつ男性の妊娠喪失リスクの増加という同様のパターンが観察されました。
≪私見≫
父親の健康状態と妊娠喪失の関連に対する根本的な病因は不明です。しかし、精子におけるエピジェネティックな変化、精子のクロマチン構造内の変化が胚発生に異常を起こす可能性は否定できません。肥満、食事内容、喫煙などは精子のエピジェネティックプロファイルに影響を与えることが数多く報告されています。
2020 アメリカ生殖医学会・アメリカ泌尿器科学会の男性不妊ガイドラインでも
精子のDNA断片化の異常が、反復流産との関連性、そして「高齢」の父親が子供の出生異常や精神疾患(例:食道閉鎖症、1型糖尿病、脳性麻痺、自閉症スペクトラム障害トリソミー21)の増加に影響をあたえる可能性を示唆する項目を作成しました。
文責:川井(院長)
お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのブログです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。