妊娠後骨粗鬆症の特徴

妊娠、出産を契機に骨は脆くなります。妊娠後期より、母体から胎児へのCa供給が始まり、母乳には1日約220mgのCaが含まれます。胎盤絨毛・脱落膜の作用によりビタミンDが活性型ビタミンDに変換され母体へ移行しており、分娩に伴う胎盤娩出から母体へのCaの再吸収は低下します。授乳中の高PRL血症は乳腺組織における副甲状腺ホルモン関連蛋白(PTHrP)の分泌を促進し、さらにGnRH分泌を抑制することで低エストロゲン状態となります。この状態は破骨細胞による骨吸収を相乗的に促進します。そのほか、遺伝的背景、生活習慣、家族歴などの骨脆弱性素因があるとされていますが、詳細な発生機序ははっきりしていません。
妊娠後骨粗鬆症のガイドラインは存在しません。過去の報告では正常妊婦においても出産後に妊娠前の骨密度に回復するまで19ヶ月ほどかかると報告されています(O’Sullivans, S.M., et al.2006)。高度な骨密度低下、多発椎体圧迫骨折を認める症例には断乳を促し、早期の骨密度改善を目指した薬物投与による治療介入が望ましいとされています。短期間に奏功した報告はすくなく、治療開始時の年齢や骨密度、次回挙児希望などの社会的背景まで考慮した薬剤選択を提案していくべきと考えます。

治療方法には、ビスフォスフォネート、テリパラチド、デノスマブ、カルシトニンなど、様々な種類の薬剤が臨床で使用されています。ビスフォスフォネート系薬剤は、その中でも最も使用されている薬剤です。ビスフォスフォネート系薬剤の使用は、長期間蓄積するため、胎児と母体の双方に悪影響を及ぼす可能性がありますが、胎児への影響はこれまでのところ報告されていません。カルシトニンは急性期の疼痛緩和により有効とされています。テリパラチドは、ヒト副甲状腺ホルモン製剤であり、カルシウム代謝を調節する働きがあります。臨床効果が高く、半減期が短いため、臨床応用されることが増えてきています。デノスマブはヒトモノクローナル抗体であり、破骨細胞の活性を阻害することにより骨粗鬆症の治療に有効とされていて、テリパラチドと併用してもよいとされています。
どの薬剤を選択するかは、多くの要因を考慮して生活習慣の改善をふくめて検討していきます。
股関節痛と関節機能制限があるような高度股関節骨粗鬆症の場合、非産科的適応となるが帝王切開が選択され母体保護に努める選択肢も検討される余地があります。明確な基準はないですが、患者様と分娩施設と相談しながら分娩様式を決定していくことが必要と感じています。
妊娠後骨粗鬆症(pregnancy and lactation-related osteoporosis ; PLO) のシステマティックレビューをご紹介します。

ポイント:

妊娠後骨粗鬆症の有病率は人口 100 万人あたり 4-8 人と推定されていて、高齢で痩せた妊婦に発生しやすいとされています。主に椎体(特に胸腰部)と股関節に発生しやすく、多層骨折が伴うことが多いとされています。

Ying Qian, et al.  BMC Musculoskelet Disord. 2021 Nov 3;22(1):926.  doi: 10.1186/s12891-021-04776-7.

PubMed, Embase, Web of Scienceなどの文献検索を1990年1月1日から2020年12月1日の期間に行い、特性、臨床的特徴、危険因子、治療選択肢を分析しました。
結果:
338症例(65報告)が対象でした。女性平均年齢は35.7歳(19-47歳)、平均BMIは22.2(16.0~39.0)でした。発症時期がわかる椎体骨折を起こした173症例のうち、149例は初回妊娠で、2回目は19例、3回目は4例、4回目は1例でした。91.5%の症例が妊娠後期3ヶ月から出産後期3ヶ月以内に発症しました。最も骨折が多かった椎骨レベルはL2、L1、T12で全体の32.6%を占め、平均骨折数は1人当たり4.4骨でした。
リスク因子として,骨代謝に影響を与える薬剤,分娩前骨折歴,骨粗鬆症の家族歴,喫煙,月経異常などを検討しています。59名中17名(28.8%)がヘパリンや経口抗凝固薬,4名がコルチコステロイドを内服していました。出産前骨折歴が68名中17名(25%)にありました。喫煙状況は111名中24例(21.6%)、排卵障害は25例中4例でした。
検査所見として、腰部Zスコアは123例で、平均値-3.2(-7.8〜0)、股関節Zスコアは122例で、平均値-2.2(-5.5〜0.9)でした。

文責:川井清考(院長)

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