ERA調整下個別化胚移植は成績改善を認めない(多施設コホート研究)

子宮内膜受容能検査(ERA)を用いた個別胚移植の成績が、そこまで成績改善につながらないのでは?という報告が続いていますが、私はIgenomix社のERA検査は有用だという姿勢は依然として変えてはいません。しかし、検査を適切に行う方法、検査後の個別化胚移植のアドオン治療の選択方法など患者様が思っているほど複雑な着床不全を解決する万能な検査ではないと感じています。先進医療Aとして告示されたこともあり、比較的早期に着床不全検査としてERA検査を検討される機会が多くなっていると思いますが、「ERA検査に異常がなかったときに、次の治療選択肢をどのように考えているか?」を相談して先に進むことが必要だと思います。あくまで複雑な着床不全の一検査にすぎないという方向性を示してくれる論文をご紹介いたします。

≪ポイント≫

1回の着床不全後のERA調整下個別化胚移植は自己胚移植、ドナー胚移植(PGTでの正常胚に限定しても)の生児獲得率には影響しないことがわかりました。

≪論文紹介≫

Mauro Cozzolino, et al. Fertil Steril. 2022 Sep 4;S0015-0282(22)00456-3.  doi: 10.1016/j.fertnstert.2022.07.007.

1回以上の着床不全患者を対象とし、3,239件自己胚移植(255件;ERA個別化胚移植、1,122件;新鮮胚移植、1,862件;凍結融解胚移植)と2,133件ドナー胚移植(319件;ERA個別化胚移植、1,175件;新鮮胚移植、639件;凍結融解胚移植)が行われた多施設コホート研究です。
主要評価項目は、胚移植1回あたりの生児獲得率、累積生児獲得率とし、副次評価項目は着床率(妊娠5週でみえた胎嚢数/移植胚の数)、妊娠率(β-hCG陽性数/胚移植数)、流産率(妊娠20週までの流産)としました。
結果:
自己胚移植では凍結融解胚移植群35.95±3.82歳、新鮮胚移植群36.3±3.41歳、ERA調整下個別化胚移植群36.79±3.5歳、ドナー胚移植では凍結融解胚移植群42.16±4.01歳、新鮮胚移植群40.42±4.17歳、ERA調整下個別化胚移植群41.13±4.19歳でした。
自己胚移植、ドナー胚移植のいずれにおいても、凍結融解胚移植群、新鮮胚移植群はERA調整下個別化胚移植群に比べ生児獲得率、累積生児獲得率が高くなりました。ロジスティック回帰分析により自己胚移植、ドナー胚移植において、凍結融解胚移植群、新鮮胚移植群よりERA調整下個別化胚移植群群は予後不良となりました。

対象症例基準は以下のとおりです。
自己胚群とドナー胚群のBMI:18.5-30であり、AFC>8 もしくはbasal FSH <8mIU/mL症例としています。子宮内膜ポリープ、粘膜下筋腫、4cm以上の子宮筋腫、卵管水腫症例は除外しています。卵巣刺激は、メインはGnRHアンタゴニスト法を選択しています。新鮮胚移植除外の基準は、トリガー日にP値が1.5ng/mL以上の場合、OHSSハイリスクの場合としました。
新鮮胚移植、凍結融解胚移植ともに内膜基準は7mm以上(ERA時は6mm以上)としています。凍結融解胚移植はHRT周期のみとなっています。

≪私見≫

内膜の受容能が3年以内であれば再現性があるという結論はIgenomix社から出ている報告です。1つのgroupが2人の患者で月単位に再現性の異なる結果となったという報告をあげ疑問を呈しています。子宮内炎症が強いと適切な内膜受容能を示さないことが最近の報告でわかってきていますのでERA検査を実施するなら適した環境で行うべきです。
最近のERA検査に否定的な論調の報告で筆者らが記載している内容として、ERA検査は悪い検査と断定しているわけではなく、もう一段階洗練されるべきだし、着床不全の主要な原因であると希望を強くもたせすぎるのはよくない、一般的検査とするには早すぎるのではないか?というポイントです。

個別化胚移植の検査を行った患者の中に、内膜受容能がずれていた人がいたかをフォーカスしてほしかったというのが個人的な意見ではあります。ただ、このような報告がでてくることで自身の行っている医療が見直せるのは本当にありがたいなと感じます。

ERA検査は着床不全精査のために先進医療で認められている数少ない検査・治療の一つです。有効的な使用方法を模索していきたいと思います。

文責:川井清考(院長)

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