ルトラール®️を用いたPPOS法(その2:Reprod Med Biol. 2023)

ルトラール®はプロゲスチン製剤として国内では以前より頻繁に使用される薬剤の一つです。しかし、アンドロゲン受容体に結合し中程度の抗アンドロゲン作用を示します。2008年、米国生殖医学会は、妊娠初期にアンドロゲン受容体に結合する外因性プロゲステロンに母親が暴露されると、尿道下裂(10,000人中5-30人の発症率)リスクが増加する可能性が否定できないとしており、使用には注意が必要です。アンドロゲン受容体は、妊娠8週以降の胎児に発現しますので、薬のwashout期間も含めて妊娠後の使用は控えることが一般的になってきています。
ルトラール®は経口投与後、速やかに吸収されfirst pass effectをほとんど受けず、バイオアベイラビリティはほぼ100%であり、複数回投与の半減期は約38時間(Curran et al. Drugs. 2004)、脂肪組織に蓄積され排泄はゆっくり行われ7日後には投与量の34%しか排泄されない(Adolf E. Schindler, et al. Maturitas. 2008)特性から全胚凍結前提のPPOS法のプロゲスチン製剤として国内で使用されてきました。ルトラール®を用いたPPOS法の国内成績をご紹介いたします。

≪ポイント≫

正常卵巣反応が予想される女性において、ルトラールを用いたPPOS法は、GnRHアンタゴニスト法と治療成績が同様であることがわかりました。胎児奇形リスク増加も症例数は多くないですが、差は認めていません。

≪論文紹介≫

Sena Shibasaki, et al. Reprod Med Biol. 2023 May 31;22(1):e12519.  doi: 10.1002/rmb2.12519.

2018年11月から2021年11月に国内生殖医療施設で実施したGnRHアンタゴニスト法(n = 835)またはPPOS法(n = 57)を用いて採卵を行なった女性を対象に行ったレトロスペクティブコホート研究です。正常卵巣反応が予測される(女性年齢<40歳、AMH≧1.0 ng/mL)で、全胚凍結を決定していた患者の生殖医療結果、周産期予後を比較検討しました。
結果:
患者背景は両群で差はありませんでした。トリガー時の 血中LH 値(mIU/mL)中央値は、GnRH アンタゴニスト群:2.0(1.2-3.7) が PPOS 群 0.9(0.3-1.7) とアンタゴニスト群で有意に高くなりました。PPOS群ではpremature LHサージ周期はありませんでした。受精率および胚盤胞到達率、胚移植妊娠率も差はありませんでした。先天異常率は有意な差は認めませんでした[0.9%(3/329)、0.0%(0/17)]。

≪私見≫

この研究の患者層は36歳前後、AMH 2.5ng/mL付近の女性を対象としています。卵巣刺激の比較論文を見るときに、やはり、自分の臨床経験と照らし合わせて読むことが多いです。GnRHアンタゴニスト法のアンタゴニスト製剤としてレルゴリクス錠を用いている点、PPOSのクロルマジノン酢酸エステル錠は2mg/dayの使用である点、卵巣刺激期間は9日間ですが、何らかの医療従事者意思決定バイアスもあってか、PPOS法がアンタゴニスト法に比べてHMG総投与量が多いところ(2400 IU vs. 2025 IU)も興味深いポイントです。トリガーはほとんどがダブルトリガーのようです。

過去に取り上げた関連のブログもご参照ください。

文責:川井清考(院長)

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